明治から昭和戦前期の建造物は、港区南半域、現在の高輪、三田、白金、白金台に多くみられます。用途別では専用住宅や店舗併用の住宅系の建造物が多く、社寺などの宗教系がこれに次ぎます。品川駅から港区の南半域をたどってみましょう。
品川駅の高輪側に、グランドプリンスホテル高輪の宴会施設として使われている貴賓館(旧竹田宮邸洋館、①)があります。貴賓館の北に位置する日本基督教団高輪教会(②)前から北方に歩むと、高輪消防署二本榎出張所(旧高輪消防署、③)に至ります。鉄筋コンクリート3階建ての建物の望楼は、昭和50年頃まで目視による巡視のために使われていました。
そこから西にたどると、明治学院のキャンパスが眼の前に広がります。同大学白金キャンパスは、明治20年(1887)に開設されました。ここには、インブリー館(明治21年頃)、記念館(旧神学部校舎兼図書館)や、W.M.ヴォーリス設計の礼拝堂(④)が厳(おごそ)かなたたずまいを見せています。明治学院大学から桑原坂を登り切ると、目黒通りを挟んで、内田祥三(よしかず)(1885~1972)が設計した東京大学医科学研究所一号館(昭和12年[1937])と港区立郷土歴史館(旧公衆衛生院)の特徴的な建物が目に飛び込んできます。そこから目黒駅方面に向かうと、東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)(⑤)に行き着きます。
さて、港区立郷土歴史館前面の目黒通りを東に下り、国道1号を道なりに進むと慶應義塾大学の三田キャンパスに至ります。ここには、国の重要文化財に指定されている演説館と図書館旧館(⑥)があります。演説館は明治8年の完成で、擬洋風建築の数少ない現存例です。図書館旧館は、曾禰中條(そねちゅうじょう)建築事務所が設計しました。慶應義塾大学の塾監局(大正15年[1926])や第一校舎(昭和12年)も貴重な歴史的建造物です。三田地区は港区内で最も多くの歴史的建造物が保存されている地域で、ほかにJ.コンドル設計の綱町三井倶楽部(大正2年)やW.M.ヴォーリズ設計のキリスト友会フレンズセンターなどがあります。
震災、戦災による被害が大きかった港区北半域にも、歴史的建造物が散見されます。
地下鉄御成門駅から北に向かい、西新橋地区に入ったあたりの東京慈恵会医科大学のキャンパスに残されているF棟は、昭和5年(1930)竣工の建物です。虎ノ門界隈では、虎ノ門大坂屋砂場(大正12年)、菊池寛実記念智美術館別館(大正15年)といった大正期の建物や、大倉集古館陳列館(昭和2年)などの昭和戦前期の建物を見ることができます。
平成21年(2009)に国宝となった迎賓館赤坂離宮(旧東宮御所、⑦)は港区を代表する歴史的建造物で、片山東熊(とうくま)(1854~1917)が設計した宮殿建築物です。迎賓館赤坂離宮に程近い明治記念館もこの地区を象徴する明治・大正期の建造物です。令和2年(2020)に東京都指定有形文化財に指定されました。赤坂地区の南西端に位置する旧乃木邸には、明治22年竣工の馬小屋(⑧)のほか、明治期に建てられた主屋が残されています。青山地区では、根津美術館で明治・大正期の茶室をみることができます。
まちの大半が戦災時に失われた六本木界隈で歴史的建造物をみることはほとんどありませんが、麻布地区に至ると、W.M.ヴォーリズ設計の西町インターナショナルスクール(旧松方正熊邸、大正10年)や安藤記念教会教会堂(⑨)、広尾稲荷神社本殿(大正14年)といった大正期の建物や、日本基督教団南部坂教会(昭和8年)などの昭和戦前期の建物がみられます。
明治後期以降の埋立て造成により成立した芝浦港南地区では、この時代の建物は少なく旧協働会館(現在の港区立伝統文化交流館)が知られるのみですが、堀や運河に近代土木遺産のいくつかをみることができます。
(髙山 優)
①グランドプリンスホテル高輪 貴賓館(旧竹田宮邸洋館、建築年:明治40年代)
②日本基督教団高輪教会 教会堂(建築年:昭和8年)
③高輪消防署二本榎出張所(旧高輪消防署、建築年:昭和8年)
④学校法人明治学院 礼拝堂(建築年:大正5年)
※一般開放日以外は見学不可
⑤東京都庭園美術館(旧朝香宮邸、建築年:昭和8年)
写真提供:東京都庭園美術館
⑥慶應義塾大学 図書館旧館(建築年:明治45年)
写真提供:慶應義塾広報室
⑦迎賓館赤坂離宮(建築年:明治42年)
※一般参観についての詳細はHPをご確認ください
https://www.geihinkan.go.jp/akasaka/
⑧旧乃木邸・馬小屋(建築年:明治22年)
※写真は馬小屋
⑨安藤記念教会 教会堂(建築年:大正6年)