近代木造建築物の保存と活用

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 芝浦一丁目11番に、平成21年(2009)10月27日、港区指定有形文化財(建造物)の指定を受けた旧協働会館(現在の港区立伝統文化交流館)があります。建物は木造2階建てで、元は芝浦花柳界の見番(三業組合事務所)でした。竣工は昭和11年(1936)、目黒雅叙園を手がけた大工棟梁・酒井久五郎によって建築されました。
 建物の平面は、間口5間半(約9m)、奥行10間半(約18.5ⅿ)ほどの棟の後方が、8.2mほど張り出すL字形を呈し、正面玄関に銅板葺(どうばんぶき)の唐破風(からはふ)が付けられています。1階に芸妓(げいぎ)取り次ぎのための事務所を置き、2階にはヒノキ板敷の舞台がある、「百畳敷」とも呼ばれる演舞室と控室があります。良材をふんだんに使い、扉の卍崩しや階段の手すりなどに大工の技巧をみることができます。
 戦後は、東京都の港湾労働者宿泊施設「協働会館」として平成12年(2000)まで使われてきましたが、平成21年4月に建物が東京都から港区に譲渡され、平成29年から令和元年にかけて保存と活用を図るため耐震改修工事がおこなわれました。その施工にはさまざまな困難がともないましたが、竣工後の姿は、都内に残された唯一の見番として建てられた木造建築物として趣を保ち、芝浦の歴史の一こまを今に伝えるに十二分です。現在、地域の人びとの集いの場として活用されており、現代の求めに応じた保存・活用例として注目されます(旧協働会館については、本章1節に改修前の写真を、6章12節に「港区立伝統文化交流館」として生まれ変わった改修後の写真があります)。