例言

     例言(れいげん)
一偕楽園(かひらくえん)は往(いぬ)る天保己亥歳(てんほつちのとのいとし)我(わか)水戸景山源公(みとけいさんげんこう)の闢(ひら)
 かれたる囿園(ゆうえん)にして四時(しいし)の風光山水(ふうくわうさんすい)の明媚(めいび)悉(こと/″\)く
 其(その)勝況(しやうけふ)を盡(つく)す能(あた)はす此書(しよ)に載(の)する所(ところ)は拾(しう)か一にして
 凡(およそ)此地(ち)に来遊(らいゆう)する衆客(しゆうかく)の多(おゝ)く耳目(じもく)に觸(ふ)るゝものを
 撰(えら)ひ出(いた)して其(その)概畧(がいりやく)をしるす
一卷中(くわんちう)其(その)勝景(しやうけい)を図(づ)し併(あわ)せて當時(とうし)騒人(そふじん)の詩歌(しいか)を題(だい)す
 るものは讀者(よむもの)をして坐(ゐ)なから其(その)勝概(せうがい)を諳(そら)んしあるひ
 は看(み)るに倦(うま)ざらむ事(こと)を要(よふ)す
一此書(しよ)其(その)見聞(けんもん)する所(ところ)に隨(したかう)て或(あるひ)は図(づ)し或(あるひ)は記(き)す又(また)口碑(こうひ)に
 傳(つた)ふる處(ところ)其(その)正(たゞ)しきものを資(と)り以(もつ)て是(これ)を輯録(しうろく)すしか
 れとも其(その)聞所(きくところ)同(おな)しからざるものあり今(いま)や之(これ)を訂(たゞ)すに
 遑(いと)まあらす恐(おそ)らくは謬誤(あやまり)あらん看官(かんくわん)夫(それ)之(これ)を恕(じよ)せよ
一此書(しよ)弟(たい)一卷(くわん)は園中(えんちう)の概況(がいけう)をしるし弟(だい)二卷(くわん)は楼上(ろうしやう)の一望(ぼふ)
 中(ちう)にある仙湖濱水(せんこひんすい)の勝境(せうけふ)を掲(かゞ)げ併(あわ)せて苑中(えんちう)の故事(こじ)
 を録(ろく)す
一好文亭(こうぶんてい)所藏(しよぞう)の中(うち)に偕楽(かいらく)吟詠(ぎんえい)と題(だい)する冊子あり公(こう)之(これ)
 か序(じよ)を綴(つゞ)り當時(とうじ)翰墨(かんぼく)の士(し)をしておの/\詩歌(しいか)を記(き)せし
 む爾来(しかるにより)此園(その)に来遊(らいゆふ)する騒人(そうじん)墨客(ぼくかく)かならす筆(ふて)を請(こ)
 ふて其(その)餘白(よはく)に題(だい)するもの積(つん)て数百首(すひやくしゆ)にいたる今その
 勝(すぐ)れたるものを撰(えら)ひ此書(しよ)の續編(そくへん)とす而(しか)していまだ
 稿(こう)を脱(だつ)せす後日(ごにち)を待(まち)て梓行(しこう)すべし
               編者誌