水浜電車にあこがれて

水浜電車最終乗務員――東台 吉川正明さん(71歳)
 水浜電車が浜田-磯浜間で営業開始したのは大正十一年。
 私が運転手として乗務したのは、それから約二十年後の昭和十六年の二月でした。私の家では、父そして二人の兄がこの水浜電車(株)に勤務しており、兄たちは運転手をしていました。そんな姿を見ているうちに、いつの日か自分も乗ってみたいという気持ちを抱くようになり入社した次第です。最初の四年間は小荷物取扱い業務に携わっていましたが、念願かなって数か月の講習を受けた後に晴れて乗務員の道へ。
 私の乗務は一日四往復でした。早番のときは早朝五時に出社、遅番のときは最終十一時の運転を終えてから帰宅。四十一年まで乗務員として勤務しましたがその間、顔馴染みのお客さんも増え、当時、行商をしていたおばさんとは今でもおつきあいをしています。朝晩は日製の勤め人や行商の人たちでにぎわい、縁日には一日中鈴なり。電車がバスに切り変わったときは本当に寂しかったものです。