農業――青柳町 石川武斉さん(83歳)
那珂川はたびたび大洪水を起こしていますが、その中でも大きかったのが昭和十三年・十六年と六十一年の水害。私の家ではサケ漁の舟を持っていたので、これに町内の人を乗せて那珂町の高台へ避難したことがありました。また。腕白で大の馬好きだった子供のころ、冠水した田畑の上を馬だらいに乗って本流近くまで見に行き、ひどく叱られたこともありました。
堤防がなかった当時、水は二日ほどで引きましたが、その後には二、三十センチメートルの汚泥が残り、元のように整地するのに三年はかかりました。ときには、移動が間に合わずに小麦三反分を流してしまったり、野菜が全滅してしまったりという苦い経験もしました。
今でも、濁流の中を草葺きの家が流されて来たことや、川岸の竹やぶに水死体が引っ掛かっていた恐ろしい光景が脳裏に焼きついています。