1.調査の概要

 大串貝塚B1地点のトレンチは、貝層の平面分布のうち南北方向の範囲、特に南側限界の把握と、貝層の垂直分布の調査を主目的として設定されたものである。トレンチは、東西の幅1.5m、南北の長さ29.5mで設定され、南端を起点として1m毎の区に分けて表記することにした。現在の地表は、トレンチの18~23区で約30度の傾斜になっており、調査以前に斜面の一部が削られて、20-21区西側で貝層の断面が露出した状態にあった。そこで、20-21区を中心として南北それぞれの方向に貝層の上面を追跡しながら調査を進め、最終的には貝層の範囲を含む15~25区について調査を実施した。貝層は、18~23区の間に分布し、標高4.7mから6.8mにかかる約20度の傾斜面に堆積している。最も厚い部分で約1.4mを測る貝層の堆積は全て、縄文時代前期の花積下層式期に形成されたものである。
 貝層は、斜面の削平以外にも、18-19区を東西に横断する溝状の掘り込みによって攪乱を受けている。このため、貝層の南側末端部を確認することができず、15~18区に堆積する第8~12層との層序関係も明らかにし得なかった。但し、第11層からは浮島式土器が出土しており、第8~11層は、花積下層式期の貝層よりも新しい時期に堆積したと考えられる。実際には第12層と貝層との前後関係のみが不明である。第12層は遺物包含層であり、これによって貝層の南側限界を越えて遺跡の範囲が拡大することが明らかにされた。しかし、標高3.5m付近から地下水が湧出してトレンチの下底が水没するために、0~15区へ調査区を拡張して第12層を追跡することは不可能であった。また、貝層下にも遺物包含層の存在することが明らかにされたが、基盤層を確認するには至らず、第32層を遺物包含層の最下層として捉えるに止まった。
 調査においては、主に平面的な観察から仮層位番号を付して分層発掘を行なった。最終的な層位番号は、30層に分層される貝層と、36層に分層される土層・砂層・砂礫層を、トレンチの東壁セクションを基本として整理したものである。