第7図 S29層上面炉址実測図(1/50)
トレンチ22-23区のS29層上面においては焼土の散布がみとめられ、特に同区中央部に焼土の集中する地点が存在する。ここを中心として周囲には、焼けた痕跡を有する獣骨片と貝殻も比較的多く散布していた。そこで、焼土の集中する地点の中心を南北方向に半截して断面を観察したところ(第7図)、A層とした焼土層下に、B層とした焼けて灰白色を呈する貝層が薄く帯状に堆積していた。A・Bの両層は、この地点で火熱を受けて生成されたと考えられるものである。両層は、焼けた痕跡を有する破砕貝片も多量に含んでおり、元来は混土貝層の堆積である。B層の直下にはS29層があり、A層の上面がS29層上面の傾斜に合致することから、両層は、貝層堆積としてはS29層の一部と考えられよう。その機能については明らかでないが、これをS29層上面に形成された炉址として捉えておく。S27層も炉址の周縁部に位置しており、基本的にはS29層の一部と考えられる。
獣骨のうち比較的大きな破片については、調査時に可能な限り出土位置を記録するように努めた。貝層の水洗選別によって摘出されたものを含めた、獣骨の量的な分析は未了であるが、少なくともイノシシ・シカの骨片のうち大きな破片で検出された顎骨については、ほぼ捉えられている。これを見ると(第8図)、獣骨の分布は、貝層範囲外の15~18区では第12層を中心としており、貝層下の遺物包含層では18-19区の第13~15層、20~24区の第7層に比較的多く、貝層中ではS29層に集中している。なお、記録されなかったものでは、調査および水洗選別の所見から、S20・S21層中にも大きな破片が比較的多く含まれていた。S29層では、特に貝層の上面において検出されたものが多く、炉址付近に相当する22-23区で記録された獣骨片のほとんどに焼けた痕跡がみとめられる。これは、既にその地点には獣骨片があり、炉址が機能することによって火熱を受けるに至ったと考えられよう。
第8図 大形破片にみる獣骨の垂直分布状況