6.貝の種類と検出状況

 大串貝塚B1地点トレンチの調査において貝層から検出された、軟体動物の貝類について報告する(註5)。対象としたのは5mm方眼のメッシュ以上に残るものであり、次の20科28種が同定可能であった(註6)。

 腹足綱
  ミミガイ科      Haliotidae
   クロアワビ      Nordotis gigatea(GMELIN)
  ユキノカサガイ科   Acmaeidae
  ニシキウズガイ科   Trochidae
   クボガイ        Chlorostoma argyrostoma lischkei(TAPPARONE-CANEFRI)
   バテイラ        Omphalius preifferi(PHILIPPI)
   イシダタミガイ    Monodonta labio(LINNÉ)
  リュウテンサザエ科  Turbinidae
   サザエ        Batillus cornutus(LIGHTFOOT)
  アマオブネガイ科   Neritidae
   カノコガイ      Clithon sowerbianus(RÉCLUZ)
  タニシ科       Viviparidae
   オオタニシ      Cipangopaludina japonica(V.MARTENS)
  カワニナ科      Pleuroceridae
   カワニナ       Semisulcospira bensoni(PHILIPPI)
  ウミニナ科      Potamididae
   ヘナタリ       Cerithideopsilla cingulata(GMELIN)
  アクキガイ科     Muricidae
   アカニシ       Rapana thomasiana CROSSE
   レイシガイ      Thais bronni(DUNKER)
   イボニシ       Thais clavigera(KÜSTER)
  オリイレヨフバイ科  Nassariidae
   アラムシロガイ    Hinia festiva(POWYS)
  オナジマイマイ科   Bradybaenidae
   ヒダリマキマイマイ  Euhadra quaesita(DESHAYES)
 斧足綱
  フネガイ科      Arcidae
   ハイガイ       Tegillarca granosa(LINNÉ)
  タマキガイ科     Glycymeridae
   べンケイガイ     Glycymeris albolineata(DUNKER)
  イガイ科       Mytilidae
   ムラサキインコガイ  Septifer(Mytilisepta)virgatus(Wiegmann)
   イガイ        Mytilus coruscus GOULD
  イタボガキ科     Ostreidae
   イタボガキ      Ostrea denselamellosa LISCHKE
   マガキ        Crassostrea gigas(THUNBERG)
  シジミガイ科     Corbiculidae
   ヤマトシジミガイ   Corbicula japonica PRIME
  フナガタガイ科    Trapeziidae
   ウネナシトマヤガイ  Trapezium(Neotrapezium)liratum(REEVE)
  マルスダレガイ科   Veneridae
   アサリ        Tapes(Amygdala)philippinarum(ADAMS et REEVE)
   コタマガイ      Gomphina(Macridiscus)veneriformis(LAMARCK)
   カガミガイ      Dosinorbis(Phacosoma)japonicus(REEVE)
   ハマグリ       Meretrix lusoria (RÖDING)
  ニッコウガイ科    Tellinidae
   ヒメシラトリガイ   Macoma incongrua v.MARTENS
  オオノガイ科      Myidae
   オオノガイ       Mya(Arenomya)arenaria oonogai(MAKIYAMA)
 この他に同定不能な陸産の微小巻貝が数種あり、5mmメッシュ以下に含まれる完形の貝殼のほとんどは、この微小巻貝である。
 次に、各貝種について検出状況を中心とした説明を加える。
 クロアワビ  各貝層中に含まれているが、そのほとんどが細片である。S25層下部もしくはS26層上面からは、完形のものと半分程度残存するものとが約20cmの距離で検出された(第11図)。比較的大きな破片はS25層に多く、少量ながらS13・S23・S29層にもある。

第11図 S25層下部もしくはS26層上面で検出されたクロアワビ

 ユキノカサガイ科  S26・S29層から1点ずつ検出された。S26層のものは殼が6mmと小さく、高いかさ形を呈する。S29層のものは殼が楕円形で、低いかさ形を呈しており、計測可能な殼の短径は12mmである。
 クボガイ  S1・S13・S14・S15・S25・S26・S29層中に含まれており、腹足綱のなかでは貝種組成比率が最も高い。S29層から比較的多量に検出されており、次いでS26層中に多く、これより上位の貝層中には少ない。
 バテイラ  S29層から破片が1点検出された。
 イシダタミガイ  S25層から完形のものが1点、S29層から破片が1点検出された。
 サザエ  ふたのみが検出されている。S1・S11・S23・S25・S29層から、それぞれ1点ずつの計5点である。
 カノコガイ  S1層から4点、S13層から2点、S14層から1点、S25層から5点、S26層から2点、S29層から1点の計15点が検出された。
 オオタニシ  S2・S11・S14層から、それぞれ1点ずつの計3点が検出された。
 カワニナ  S1層から4点、S11層から1点、S13層から2点、S14層から2点、S25層から3点、S29層から3点の計15点が検出された。
 ウミニナ科・ヘナタリ  ウミニナ科のうちヘナタリと同定できたものは、S25層の3点、S26層の5点、S29層の1点である。この他に破片のため同定不能なものがS1層から3点、S15層から1点、S25層から6点、S29層から2点検出されており、ウミニナ科としては計21点である。
 アカニシ  ほぼ完形のものは、S1・S11・S23層からそれぞれ1点ずつ、S29層から2点検出されている。S29層のうちの1点は、S29層下部にあり、第7層上面に接していた。破片は、S13・S15・S25・S26層中にも少量ながら含まれている。
 レイシガイ  S1・S14・S27・S29層から、それぞれ1点ずつの計4点が検出された。
 イボニシ  S23層から1点検出された。
 アラムシロガイ  S26層から1点検出された。
 ヒダリマキマイマイ  S15・S25・S29層から検出された。S25層中には5個体以上が含まれており、他の貝層中には1個体程度と考えられる。
 ハイガイ  S15層からほぼ完形の右殻が1点、S23層から破片が1点、S29層から完形の右殻が1点と破片が3点検出された。
 ベンケイガイ  S23層から検出されたものは貝輪の破片であり、S2・S25層から1点ずつ検出された破片も、貝輪の製作に関わる可能性が考えられる。
 ムラサキインコガイ  S26層から破片が1点検出された。
 イガイ  各貝層中に含まれており、S13・S15層では貝種組成比率の4位を占める。そのほとんどは細片であるが、S13・S15・S24・S25・S26層からは、殻頂を有した比較的大きな破片が検出されている。
 イタボガキ  S26層から検出された貝輪の破片である。
 マガキ  各貝層中に含まれており、貝種組成比率の2位を占める。特にS26・S29層中に多く、完形の貝殻がブロック状にまとまった状態で検出された。殻高150mm以上のものが多い。小石の付着した貝殻もみとめられる。
 ヤマトシジミガイ  各貝層を主体的に構成し、貝種組成比率では圧倒的に1位を占める。貝層毎の貝種組成比率および殻長・殻高、焼けた痕跡を有する貝殻の比率については、前述した通りである。
 ウネナシトマヤガイ  各貝層中に含まれており、重量に基づく貝種組成比率では目立たないが、殻頂数による個体数ではヤマトシジミガイに次いで多い。S26層から比較的多量に検出された。
 アサリ  S13・S15・S23・S25・S26・S29層から検出された。S13・S15層はともに完形の左殻が1点のみであり、他の貝層も殻頂を有した破片はそれぞれ1点あるにすぎない。
 コタマガイ  S11層から1点、S13層から4点、S18・S19層から1点、S20・S21層から3点、S23層から1点、S24層から1点、S25層から5点、S26層から3点、S29層から4点の計21点が検出された。
 カガミガイ  S26層から破片が1点検出された。
 ハマグリ  各貝層中に含まれており、貝種組成比率の3位を占める。貝層全体としては殻長40~55mm・殻高35~50mmの範囲のものが多い。最小のものは、殻長39mm・殻高34mmで、S15層とS29層から検出された。殻高の最大は87mmであるが、これは殻長が不明である。殻長の最大は101mmであり、この殻高は82mmを測る。これらはS29層から検出された。貝刃に利用されているのは、殻長65~80mmの範囲のものである。
 ヒメシラトリガイ  各貝層中に含まれているが、完形のものは無い。S26・S29層に比較的多く、殻頂を有した残存状態の良好な破片も含まれている。
 オオノガイ  各貝層中に含まれており、S25・S26・S29層では貝種組成比率の4位を占める。特にS26・S29層中に多く、殻頂を有した残存状態の良好な破片も検出されているが、完形のものは稀である。
 以上の貝類の他に、節足動物のシロスジフジツボが各貝層巾に含まれていた。また、B1地点トレンチ貝層サンプルの水洗選別において検出されたものには、節足動物のモクズガニ(註7)、棘皮動物のムラサキウニがある。植物遺存体では堅果果実の殻破片の炭化物が検出されており、糞石も破片の状態で貝層中に含まれていた。これらの詳細については未分析である。
     註1 「破砕貝片」という表現は、焼けた痕跡の有無に関係なく使用したが、実際にはほとんどが焼けた痕跡を有する。
     註2 礫については、指頭大以下のものを小礫、拳大以上のものを大礫として、その中間のものを中礫とした。大礫が含まれる層には中礫と小礫が、中倅が含まれる層には小礫が、それぞれ一緒に含まれている。
     註3 トレンチの西壁セクションにおいてはS13層とS15層を分層していない。S15層は、調査時に東壁セクションから西壁セクションへ連続して堆積していることが確認されており、貝層もS13層とは分離してサンプリングされている。同時にS14層は、西壁セクションにまで堆積が及んでいないことが確認されている。
     註4 灰白色に変色していなくとも火熱を受けた痕跡のみとめられる貝があることを、小池裕子氏に御教示いただいた。これを考慮すれば、実際には層毎の比率はさらに高いものとなる。
     註5 B1地点で検出されておらず、B2地点トレンチの貝層から検出された貝種には、斧足綱バカガイ科のウバガイがある。
      註6 貝種の同定にあたっては、小池裕子氏に御教示を賜った。
         貝種の学名については、渡部忠重・小菅貞男『標準原色図鑑全集 第3巻 貝』保育社 1967 から引用し、貝種の配列もこれに拠った。
      註7 金子浩昌氏に御教示を賜った。

 貝層サンプルの選別にあたっては、黒沢 浩・立石尚之・野口享治・三舟隆之・毛受由美・鷲尾政市の各氏と太田屋旅館に多大なる御協力を賜った。心より感謝申し上げる。