1.土器

 今回の発掘調査によって検出された土器はコンテナにして6箱程である。これらの土器は、第Ⅰ層群から第Ⅳ層群までの貝層群や第V層群の包含層群のほか、それらの下位層からも出土している。量的に一番多いのが第Ⅴ層群、次に第Ⅲ層群、第Ⅳ層群そして第Ⅰ・Ⅱ層群の順である。分類としては次のように行った。

 第1土器群 三戸式土器
 第2土器群 条痕文系土器
 第3土器群 花積下層式土器
  第1類 文様帯を有さず、素口縁を呈するもの
   1種  斜縄文が施されるもの
   2種  羽状縄文が施されるもの
   3種  網目状文が施されるもの
   4種  クシガキ文が施されるもの
   5種  無文のもの
  第2類 文様帯を有さず、複合口縁を呈するもの
   1種  斜縄文が施されるもの
   2種  羽状縄文が施されるもの
  第3類 口縁部文様帯を有し、素口縁を呈するもの
   1種  文様帯内に沈線文が施されるもの
  第4類 口縁部文様帯を有し、複合口縁を呈するもの
   1種a 文様帯内に沈線文が施されるもの
   1種b aと同様で、さらに貼付文が施されるもの
   2種  文様帯内に撚糸圧痕文が施されるもの
  第5類 口頸部文様帯を有し、複合口縁を呈するもの
   1種a 口縁部文様帯に沈線文が頸部文様帯に撚糸圧痕文が施されるもの
   1種b aと同様で、さらに同形竹管文が施されるもの
   2種a 口縁部文様帯と頸部文様帯とに撚糸圧痕文が施されるもの
   2種b aと同様で、さらに貼付文が施されるもの
  第6類 口頸部文様帯を有し、複合口縁で波状を呈するもの
    1種  口縁部文様帯に沈線文と撚糸圧痕文が、頸部文様帯に撚糸圧痕文が施されるもの
  第7類 口頸部文様帯を有し、素口縁を呈するもの
    1種  文様帯内に撚糸圧痕文が施されるもの
    2種  刻目のある隆帯文が施されるもの
  第8類 口頸部文様帯を有し、素口縁で波状を呈するもの
    1種  文様帯に撚糸圧痕文が施されるもの
    2種  刻目のある隆帯文が施されるもの
 第4土器群 浮島式土器

第12図 大串貝塚出土土器実測図(1)


第13図 大串貝塚出土土器実測図(2)

1.第32層(第14図1・2)
 第1土器群
  1はクシ状工具により2条あるいは3条の沈線を施した後、同工具により綾杉状のモチーフが描かれたやや内湾する口縁部破片である。黒褐色を呈し焼成は良好である。
 第2土器群
  2は波状口縁を呈し、貝殻条痕文が施されている。口唇部は平坦で原体R{LLの縄文が施文されている。
2.第20層(第14図3~5)
 第1類
  3と4は1種に属する口縁部破片である。3は二段目に反の撚りをした原体R{RRを結束させた縄文が施されている。黄茶褐色を呈し補修孔が認められる。4は口縁部をR{LLの縄文により、胴部をL{RRの縄文により施文されている。
 第5類
  5は沈線により鋸歯状のモチーフを口縁部に描き、撚糸圧痕文により蕨手状のモチーフを頸部に施している。頸部のモチーフ内には斜めの刺突がなされている。1種aに属する。


第14図 大串貝塚第32層・第20層出土土器拓影図

3.第Ⅴ層群(第12図2・3、第15図1~16)
 第1類
  1と2は2種に属する口縁部破片である。原体R{LLとL{RRとにより縄文が施されている。2は口縁が内傾し直立する器形のものである。1は第12層、2は第13層出土。
 第2類
  3は1種に属し原体R{LLにより縄文が施されている。第13層出土。4・5は2種に属しR{LLとL{RRとにより縄文が施されたものである。5は施文後ナデが施され、口唇部には刻目を施している。4・5とも第13層出土。
 第3類
  6は刻目のある細い隆帯により口縁部と胴部とを区画したものである。口縁部は沈線により鋸歯状のモチーフが施され、胴部は原体R{LLの縄文が施されている。第13層出土。
 第4類
  第12図2は1種bに属するものである。口縁部は沈線により菱形状のモチーフを作出し、撚糸圧痕文を渦状に施した貼付文が付せられている。胴部は原体R{LLとL{RRとの縄文が施されている。第13層出土。7は2種に属する口縁部破片である。口縁部は撚糸圧痕文による綾組状のモチーフが描かれ、胴部は原体L{RRの縄文が施されている。第13層出土。
 第5類
  8と第12図3とは1種に属するものである。8は口縁部に撚糸圧痕文を施文後、沈線により綾杉状のモチーフを描き、頸部を撚糸圧痕文により蕨手状のモチーフを作出している。頸部のモチーフ内は斜めに刺突がなされている。第12図3は沈線により菱形状のモチーフを口縁部に施し、撚糸圧痕文と沈線とにより梯子状のモチーフと蕨手状と思われるモチーフを頸部に描いている。他の例から推察するならば、蕨手状の中心には円形竹管文が押捺されていると考えられる。いずれも第13層出土。
 第7類
  9~11は1種に属する口縁部破片である。いずれも口唇部直下に刻目のある隆帯を施し、9と10は撚糸圧痕文の先端に、11は蕨手状と思われるモチーフの中心に円形竹管文が押捺されている。9と11は第12層出土。10は第13層出土。12は口唇部と二条の隆帯に刻印をつけたもので2種に属する。第12層出土。
 胴部
  13は原体RとLとによる無節縄文が施されている。第15層出土。無節縄文が施されている土器は極めて少ない。14と15は原体R{LLとL{RRとによる縄文が施されたものである。14は原体を結束させている。いずれも第13層出土。
 底部
  16は底面にR{LLの縄文が一部に施文されている。内面は黒色を呈する。第13層出土。


第15図 大串貝塚第Ⅴ層群出土土器拓影図

4.第IV層群(第12図1・4、第16図1~15)
 第1類
  1は軸に左巻きと右巻きとの条を加えた単軸絡条体による網目状文が施されている。3種に属する。S20層出土。
 第2類
  第12図1は口縁部に原体R{LLの縄文を、胴体に原体L{RRとR{LLとの縄文を施したものである。口唇部の一部に刻目が施されている。S29層出土。
 第5類
  2は1種bに属する土器である。口縁部には口縁部直下と斜位に刻目のある隆帯が施され、沈線により菱形状のモチーフが描出されている。頸部には撚糸圧痕文により蕨手状のモチーフが作出され、その中心に円形竹管文が押捺されている。S29層出土。
 第6類
  5は波頂から刻目のある短かい隆帯を垂下させているものである。隆帯の左側は沈線により鋸歯状のモチーフを施し、右側は平行させた撚糸圧痕文を施文している。頸部には撚糸圧痕文が認められる。S29層出土。
口縁部・頸部
 第12図4は頸部に刻目のある二条の隆帯を施した後、撚糸圧痕文により綾組状のモチーフを描出し沈線を充填させている。胴部には原体L{RRの縄文が施されている。S29層出土。3は沈線により菱形状のモチーフが描出されているものである。口唇部直下と口縁部直下には刻目が施されている。S29層出土。4は撚糸圧痕文により波状のモチーフが施され、斜めに刺突がなされている。S29層出土。6は左巻きと右巻きとの条を加えた単軸絡条体による網目状文が施され、沈線により菱形状のモチーフを描出した貼付文が付せられたものである。S29層出土。

 胴部
  7は外面に原体R{LLの縄文を施文後、アナダラ属の貝殻腹縁より条痕文を斜位に施し、内面には横および斜方向に条痕文を施したものである。条痕文が施されているものは極めて少ない。S29層出土。8は左巻きと右巻きとの条を加えた単軸絡条体による網目状文が施されている。S29層出土。9と10とは原体L{RRによる縄文が施されている。9は原体を結束させている。いずれもS29層出土。11と12は原体L{RRととR{LLとによる縄文が施されている。11は補修孔があけられ、12は隆帯が施されている。いずれもS29層出土。13は刻目のある隆帯の上下に平行させた撚糸圧痕文を施文後、斜めに刺突を加えたものである。S29層出土。
 底部
  14は底面に原体R{LLの縄文を施したものである。S29層出土。15は胴部に原体L{RRとR{LLとの縄文を施文したものである。S29層出土。

第16図 大串貝塚第IV層群出土土器拓影図

5.第Ⅲ層群(第13図、第17図1~23)
 第1類
  1は4種に属し斜位にクシガキ文が施されているものである。破片下端に原体L{RRの縄文がわずかに認められ、胴部は縄文が施文されるものと考えられる。S18・19層出土。2は5種に属する無文のものである。横位にナデが施されている。S20・21層出土。
 第2類
  3は1種に属し口縁部・胴部ともに原体R{LLによる縄文が施されている。S26層出土。4と5は2種に属し、口縁部を原体R{LLにより胴部を原体L{RRとR{LLとにより施文されている。4はS17・23層出土。5はS26層出土。
 第3類
  6は口縁部と胴部とを細い隆帯によって区画し、口縁部を沈線により菱形状のモチーフを描出させたものである。波状口縁を呈する。S17層出土。
 第4類
  7と8は1種aに属するものである。7は口縁部の沈線により菱形状のモチーフを描出し、胴部に原体L{RRとR{LLとの縄文が施されている。口唇部には刻目が施されている。S26層出土。8は口縁部に沈線により綾杉状のモチーフを作出し、胴部にはL{RRの縄文を施したものである。口唇部直下には浅い刺突がなされている。S25層出土。
 第5類
  9は2種aに属し口縁部に平行させた撚糸圧痕文を施し、刻目のあるドーナツ状の貼付文が付せられている。頸部には撚糸圧痕文が施文されている。S25層出土。
 第8類
  第13図1は2種に属し刻目のある隆帯により文様帯を形成するものである。隆帯の間には刺突文が充填され、口唇部直下には刻目が施されている。胴部は原体LとRとの無節縄文が施文されている。S25層出土。
 口縁部
  10は渦状の撚糸圧痕文が施された貼付文を有するものである。貼付文の両端には隆帯を垂下させており、口縁に平行させた撚糸圧痕文を施している。S26層出土。
11は沈線により菱形状のモチーフを描出させたものである。口唇部と口縁部の直下には刻目が施されている。S25層出土。12は波状を呈し波頂部から刻目のある隆帯を垂下させたものである。隆帯の両端には撚糸圧痕文が施され刺突がなされている。第8類1種に属するものと考えられる。S23層出土。
 頸部・胴部
  13~15は刻目のある隆帯を有し撚糸圧痕文が施され刺突文が充填されるものである。13は隆帯により頸部と胴部とを区画している。14と15は撚糸圧痕文により14が波状のモチーフを15が蕨手状のモチーフを描出している。いずれもS17層出土。16は結束させた原体L{RRにより縄文が施されたものである。S25層出土。17~19は原体L{RRとR{LLとの縄文が施されたものである。17はS20・21層、18はS18・19層、19はS17層出土。20と21は左巻きと右巻きとの条を加えた単軸絡条体による網目状文を描いたものである。21の上面には原体L{RRとR{LLとによる縄文が施されている。いずれもS26層出土。
 底部
  22は底面全体に原体L{RRによる縄文が施され上げ底を呈するものである。S25層出土。23は原体L{RRによる縄文が胴部に施されたものである。S20・21層出土。

第17図 大串貝塚第Ⅲ層群出土土器拓影図

6. 第Ⅰ・Ⅱ層群(第18図1~13)
 第1類
  1は2種に属し原体L{RRとR{LLとにより縄文が施されたものである。両側が補修孔があけられているが貫通していない。S9~S15層出土。
 第2類
  2~4は2種に属し原体L{RRとR{LLとにより縄文が施されたものである。2はS13層、3はS11層、4はS2層出土。
 第4類
  5は1種aに属し口縁部を沈線により鋸歯状のモチーフを描出し、胴部を原体L{RRにより縄文を施したものである。口唇部と口縁部直下には刻目が施されている。S9~S15層出土。
 第7類
  6は刻目のある隆帯を連出させ刺突文を充填させているものである。S13層出土。
 口縁部
  7は撚糸圧痕文を施文後、沈線により綾杉状のモチーフを描出させているものである。補修孔があけられている。S9~S15層出土。
 頸部・胴部
  8は左巻きと右巻きとの条を加えた単軸絡条帯により網目状文を施している。S13層出土。9はヘラ状工具により斜位にミガキが施されている。S2層出土。10は太い原体L{RRとR{LLとにより縄文が施されている。S9~S15層出土。11は刻目のある隆帯により頸部と胴部とを区画したものである。頸部は撚糸圧痕文と沈線文とにより梯子状のモチーフを描出させ、胴部は原体R{LLとL{RRとにより縄文が施されれている。S1層出土。12は刻目のある隆帯を施し、撚糸圧痕文を施文後、斜めに刺突文を充填させたものである。S1層出土。
 底部
  13は底部が外反するもので、原体L{RRの縄文が施文されている。S2層出土。

第18図 大串貝塚第Ⅰ・Ⅱ層群出土土器拓影図

第19図 大串貝塚第11層群出土土器拓影図

7.第11層(第19図1~6)
 胴部・底部
  1は原体R{LLとL{RRとによる縄文が施されている。2と3は原体R{LLとL{RRとのループ文による2は条を長くして3はループ部分のみを施文している。4は刻目のある微隆帯文により頸部と胴部とを区画したもので、胴部には原体R{LLとL{RRとによるループ文が施されている。11層にはループ文が施文されている土器が多い。
 第4土器群
  5と6は同一個体である。アナダラ属の腹縁を用いて支点を交互に移動させてジグザグ文を描いている。黄茶褐色を呈し焼成は良好である。