3 第三号住居址(第一一~一三図,図版第四・五)


第一一図 第三号住居址実測図
 
 規模 北壁のW-X間は約6.1m,南壁のY-Z間は僅かに短かく6.0m,西壁のW-Y間と東壁のX-Z間は約5.5mを測り,長方形に近い竪穴となる.面積は約34m2で主軸方位はN14°Wである.壁高は50~55cmあり,壁面は崩落せずに良好な状態で残存している.
 床面 各柱穴間の内側(内区)は凹凸のある硬度3,外区はそれより軟らかく硬度2の状態である.部分的に相違するが厚さ5~15cmの貼床が全面に施されている.壁の直下には幅15~20cm,深さ15~23cmの周溝も存在する.また,床面には煉瓦状に焼けて赤変した部分が11か所に認められた.
 ピット  各コーナーの対角線上に4本検出された.P1とP2はプラン不明瞭で各2本の重複ピットと想定されたが,半截発掘を行った結果,各1本のピットであることが判明した.これは貼床と同様のローム塊が柱穴開口部を被覆していたためであった(第一二図)廃絶住居址を再利用している可能性も考えられ注意しなければならない.各ピットは口径40~45cm,深さ70~76cmの立派なもので主柱穴とみなされる.
 貯蔵穴  Yコーナーの近くにあり,長径65cm,短径50cm,深さ45cmの長方形に近い掘り込みである.底面は平担であり,貯蔵用に掘られた大形ピットと思われる.

第一二図 第三号住居址接合関係図・柱穴・貯蔵穴実測図

 炉址 床面の中央より僅かに北に寄った位置にある.範囲は不明瞭であるが南北75×東西60cm程度の大きさと思われる.中央部の深さは約10cmである.底部に煉瓦状の焼土層は存在しない.
 埋没土  3層に区分される.周壁寄りの外区に相当する床面に,焼土・灰・木炭を含む赤褐色土c,その上部つまり床面の内区に暗褐色土bが薄く,さらに黒色土aが確認面まで堆積する.この土砂は各層とも埋め戻したもので自然に流入堆積したものではない.特に問題となるのはc層である.この層は実測図から窺われるように,壁に接し外区全周に厚さ10~20cmに堆積し,一般には焼土・灰・木炭細片を含んでいる.部分的に焼土だけがブロック状を呈していたり,細かい炭化材を混在する所もある.竪穴内でのこうした焼土・灰・炭化物層の堆積のありかたは,住居廃絶後の凹地でなにかをまとめて燃焼あるいは焼却した行為を示すものであって,火災による焼失住居を意味するとはかぎらない.
 遺物の出土状態  ドットで記録した総数は321個である.これを平面分布上から観察すると,①YコーナーのP4と炉址を結ぶ南北方向にかけて,②炉址を含む北側にまとまって集積し,他の空間は非常にまばらとなっている.遺物の廃棄は,C-Dセクションと図版第四の写真を参照すれば,あらためて接合関係資料を引合いに出すまでもなく,①の鉢形土器(接合資料9)を主体とした破片類はYコーナーから,②の壺形土器(接合資料5),高坏形土器(接合資料11・12)を中心とした破片類は多分北壁から,廃絶住居に棄てた状態を把握することができよう.
 土器破片の表裏関係は,表146個(46%)+裏147個(47%)+立ち23個(7%)=316個(100%)である.
 遺物の概要  本址から出土した遺物の種類は,土師器,紡錘車,軽石,自然石などである.
 土師器 器種には甕形土器,壷形土器,有段口縁壷形土器,鉢形土器,坩形土器,坏形土器,器台形土器,高坏形土器などが含まれる.
 甕形土器 外反する口縁からくの字に屈曲する頸部に至り,胴部は球形を呈し,平底の底部が突出する器形である.頸部内面に稜をもつ.器面は刷毛目調整後に篦磨きを施したものが多い.
 壺形土器 口縁が直線的に開き,頸部が収縮して球形の大きい胴部に続き,底部が僅かに突出する.器面の調整は甕形土器と同様である.接合資料6が該当する.
 有段口縁壺形土器 大きな球形の胴部から頸部が短かく立ち上がって口縁に移行する.口縁部には2本一組の棒状浮文が縦位に貼付される.器面は全体に磨滅している.
 鉢形土器 底部を欠損した大形品(口径43cm)である.底部から大きく内湾しながら立ち上がり,頸部を屈曲させて口縁が外方に開く器形を呈する.器面は,口縁部を無文とし,胴部を二種類の刷毛目によって調整している.
 坩形土器 口縁が外反する大形の286・小形の59と口縁が内湾気味に大きく開く149の二種類が存在する.いずれも刷毛目調整後に篦磨きを施している.
 器台形土器 器受部が小さく内湾して開き,脚部が外反しながら大きくひろがる.円孔は器受部中央のみに穿たれ,脚部には存在しない.刷毛目調整後に篦磨きを施す.
 高坏形土器 坏部は底部から内湾して大きく開き,脚部は柱状にのびて裾部に至る.130の脚部は中膨みに近い.また,66のように円板状の底部内側から口縁が立ち上がる種類も存在する.
器形的に新しい要素が窺える高坏形土器である.
 紡錘車6 欠損品である.直径48mm,厚さ15mm,推定重量70g.中央部に径約7mmの貫通孔を有する.材質は土製である.
 軽石26・246 大小2個の軽石が存在する.破砕した石面が安山岩に類似しているために,ほとんどの面に磨耗した痕(△印)が残っている.おそらく磨石のような用途に供されたものと思われる.

第一三図 第三号住居址出土遺物実測図