第二二図 第一六号住居址実測図
規模 北壁(W-X間)は約3.7m,南壁(Y-Z間)は約3.5m,西壁(W-Y間)は若干長く約4.1m,東壁(X-Z間)は短くなって約3.9mを測る.面積は約35cmを数える.壁面は崩落せずに良好な状態を保っている.
床面 全体に平坦である.硬度3に比定できる部分は,炉址からZコーナーの床面で,細かい凹凸がみられる.炉址からWコーナーにかけては硬度2~3に相当し若干軟らかくなる.床面の下は,実測図に示すような貼床を施す.周溝は存在しない.
ピット 柱穴に相当するピットは,東側の床面に2本発見され,西側にはなぜか検出できなかった.両柱穴の直径は25~30cm,深さはP1が25cm,P2が31cmである.P3は本址に関係ない.
貯蔵穴 Zコーナーの近くにあり,長径120cm,短径110cm,深さ約60cmの規模を有する.形状は不整方形を呈し,底面は平坦である.周囲には厚さ5cm前後の“土くそ”が堆積する.
炉址 床面のほぼ中央に位置している.長径70cm,短径50cm,深さ約10cm.焼土は中央より南側に堆積する.床面下部のロームは練瓦状に焼けている.
埋没土 黒色土bと壁の近くに黒色土(ローム粒子混入)cが堆積し,中央付近の一部に撹乱aが認められる.土砂は明らかに人為的に埋め戻したものである.
遺物の出土状態 ドットで記録した平面分布は,炉址の西側に集中し,それより南側からP2の付近にまで拡散する.周壁に沿った外区の空間には,極めてまばらに遺物が存在する程度である.A-Bセクションに幅2m範囲内のドットを投影してみると,大部分のドットは床面上に重畳するかのような出土状態を示し,それより上方の覆土中にはほとんど包含されていない.この状態はまさに廃棄の同時性を示す好例として理解できる.
接合資料は,同一個体間で接合するものを含めて,7例が抽出できた.接合方向は南-北,東-西,北西-東南を指向する事例に分けられる.接合線のありかたと投棄実験例を参考にすると,北西側から廃棄した可能性が強いと思う.
土器破片の表裏関係は,表41個(49%)+裏38個(45%)+立ち5個(6%)=84個(100%)という比率になる.
接合資料の器種別内訳は,甕形土器1例,壷形土器3例,坩形土器1例,高坏形土器2例である.
接合資料1<甕形土器>18▽7・36△3
接合資料2<壷形土器>1▽0・13▽0・14▽0・15△0・16▽2……41▽0・74▽0……73▽0・77▽0
接合資料3< 同 >72▽0・84△3・35△4・64▽0・85▽3・3△0・82△0・30△2・59△0・8▽0・66▽0・67▽0・70▽0・60△0・38△3
接合資料4<壷形土器>16▽2・53△3……17▽3・86△3
接合資料5<坩形土器>40〓0・61▽0・31△0・9▽0・39〓3・76▽0・11▽0
接合資料6<高坏形土器>5△6・26△0
接合資料7< 同 >81△0・83△0
遺物の概要 出土遺物の総数は87個を数える.内訳は土師器破片76個,紡錘車1個,球状土製品1個,鉄製品残片1個と縄文土器破片8個(確認面を加えると10数個となる)に分けられる.縄文土器は,前期前半の花積下層式,後期前半の綱取式に比定できる混入遺物である.土師器は,甕形土器,壷形土器,坩形土器,高坏形土器などの器種を含んでいる.
甕形土器 接合資料1は,単口縁の甕で頸部からくの字状に外反し,胴部は球状にふくらんで底部に移行する.54の胴部も類似した器形である.外面の調整には刷毛目と箆が併用される.7の口縁部は頸部からくの字に外反し,胴部のふくらみは接合資料1よりやや弱く,長胴気味に底部へ移行する.口縁部は外面になで,内面に刷毛目を施す.胴部上半は斜めの刷毛目,下半は箆による調整痕を残している.
壷形土器 接合資料2は大型の土器で口頸部を欠失する.胴部は外方に大きく張りだし最大径を中位におく.底部は僅かに突出する.器面には斜めの箆なでが入念に行われる.胎土,焼成は良好である.接合資料3は,口縁部が直立気味に立ち上がって僅かに外反する.胴部は下方が大きくふくらみ,底部が丸底状に近くなる.口縁部を横なで,肩部を箆なで,胴部に粗い箆削りを施し,全体に整形は著しく粗雑である.接合資料4は,口縁端部を欠損するが,その立ち上がって開く具合は接合資料3の口縁部に近似する.胴部は上下の破片を実測し図上復元すると,球状を呈して移行する器形である.器面は箆磨きを丁寧に施している.
坩形土器 接合資料5は,小さい底部から口縁部が斜め外方に開く.全体に箆磨きを行い器面は平滑である.頸部内面に稜を有する.
高坏形土器 接合資料6は完形品である.坏部は底部からゆるやかに内湾して外方に開き,底部と口縁部の境に稜を形成しない.脚部は柱状にのびず短い.裾部は八の字状に開く.器面の調整は箆磨きを入念に行っている.内外面に赤彩が残る.29は坏部欠損の資料で,脚柱が長くのび,裾部は幾分内湾気味に開く.器面は箆磨きにより平滑である.
紡錘車 4は直径50mm,厚さ20mm,中央孔6mmの大きさで台形を呈する.整形は箆削りによる.土製品で重量は46gである.
球状土製品 大きさは20~25mmの扁球形を呈し,中央に径5mmの貫通孔を有する.重量16g.
鉄製品 現存長30mm,最大幅10mmを測る.下端に刃部が作出されており,おそらく刀子の先端部破片であろう.
第二三図 第一六号住居址出土遺物実測図