第五章 古墳時代遺構の調査 1 第一号住居址

1 第一号住居址(第七~九図,図版第七・一八・二〇)
 弥生時代の円形竪穴状遺構と同様に,墳丘下約3.0mのローム面に発見され,住居址の約2/3は調査区外に存在する.

第七図 第一号住居址・貯蔵穴実測図

 規模 未完掘の住居址で,北壁と南壁の長さは不明である.西壁(W-Y間)は約4.7mを測る.第二,三号住居址と同様の形状であれば,南北の両壁は若干長くなるかも知れない.ほぼ垂直に掘り込んだ壁は,良好な状態で残っており,高さは45~47cmを有する.
 床面 発掘した部分は,ほぼ外区に相当する空間であるが,硬度は2~3に比定できる.とくにYコーナーの貯蔵穴付近はかたく踏みかためられている.周溝は存在しない.
 ピット 西壁から約1.0~1.2m離れた床面にP1とP4,の2本が発見された.P1は直径約20cm,深さ46cm.P4は直径約17cm,深さ53cmを測る.主柱穴の一部と考えられる.Yコーナーの大型ピット(長径70cm,短径60cm,深さ50cm)は貯蔵穴と考えてよいと思う.
 埋没土 a・bの2層に区分できる.aは部分的にロームの小ブロックを混入する黒褐色土,bは木炭と焼土粒子を混入する黒色土であり,いずれも埋め戻した土砂である.中央付近に哺乳動物(兎類)があけたと思われる径約35~40cmの撹乱穴が存在する.
 遺物の出土状態 床面上からは多くの土器類が出土し,その状態は実測図および図版第七に示すとおりである.完形品と破片を含めた総数は46個になる.大部分は刷毛目を有する土師器であるが,若干の前期縄文時代の遺物も発見されている.
 接合資料6例のありかたを観察すると,W-Y壁(西壁)に沿い,一部の資料を除き大略南北を指向する事例が多い.とくに接合資料Zは,多くの破片が南北2mの範囲内に散在し,大小の破片を投棄した状態がうかがわれる.大部分の出土レベルは床面上である.これらの土器類は,住居の廃絶後に,まもなく一括的に廃棄された状態を示している.
 接合資料は,甕形土器,壺形土器,高坏形土器,異形器台形土器などに6例抽出できた.
 接合資料1〈甕形土器〉42△0・47▽1
 接合資料2〈 同  〉10▽0・30▽2・21△0・19△0・22▽0・18▽0・8△0・11▽0・12△0・45△0・13△0・12△0
 接合資料3〈壺形土器〉5▽0・6△0
 接合資料4〈 同  〉27▽1・26▽0…35△0・34▽0
 接合資料5〈高坏形土器〉33△0・7▽18
 接合資料6〈異形器台形土器〉4▽0・3▽2
 遺物の概要 主要な遺物は土師器,球状土製品,軽石製浮子である.覆土中の縄文土器片や石鏃などは混入遺物とみなされる.
 土師器の器種は,甕形土器,壺形土器,坏形土器,高坏形土器,坩形土器,器台形土器,異形器台形土器などで構成する.
 甕形土器 口縁部は,くの字状に外反,外傾する単純口縁で,胴部は球形を呈する.36の底部は突出している.器壁外面は,ほとんどのものが刷毛目による調整をおこなっている.内面は,刷毛目調整を施した後に,磨きを加える接合資料1や36などもある.これらの甕は,口縁部から胴部下半にかけて,ススが多量に付着し黒色を呈しており,使用頻度が高く日常什器の重要な位置を占めていたと思われる.
 壺形土器 口縁部が弱く外反し,胴部の最大径が中央よりやや下半になる接合資料3である.外面は,刷毛目調整を施した後,丹念な磨きを施す.内面は,口縁部から頸部にかけて外面同様に調整し,胴部は刷毛目だけである.小型の壺40は,胴部中位を縦約5cm×横約3cmの大きさで穿孔しており,器壁は二次焼成を受けている.祭祀的意味合いを強く感じる土器である.
 坏形土器 平底の底部からゆるやかに立ち上がる37で,内外面を丹念に磨いている.
 高坏形土器 接合資料5は脚部に比べて坏部が大きい.杯部は深い碗状を呈し,脚部は外反しながら開く.外面は坏部,脚部とも刷毛目調整を施した後,入念に磨きをおこなっている.
 坩形土器 32は,平底の底部から胴部が内湾して立ち上がり,さらに口縁部が大きく内湾ぎみに開く.内面は口縁部と胴部の境に稜を形成する.器の内外面は,刷毛目調整後に箟による磨きを施す.
 器台形土器 38は,器受部と脚部が外反しながら開く器形で,胴部が僅かに大きくなる.円孔は器受部中央と脚部(3か所)に存在する.外面は磨きを施し平滑である.
 異形器台形土器 接合資料6,15,17の3点が該当し,形状は3例とも近似する.器受部に相当する上面は,凸レンズ状または平坦で,短い円筒状を呈し,僅かにくびれて外方に開く.円孔は器の中央だけに貫通する.つくりは全体に粗雑で,内外面に凹凸がみられ,上半部外面に粗い箟なで,下半部内外面に縦位,横位,斜位の刷毛目調整痕を残す.器全面が二次的火熱を受け,上半部にはススが付着する.
 球状土製品 大きさは3.5×3.5mm,厚さ30mm,円孔径7mm,重量39g.完形品.
 石鏃 基部に抉り込みを有する凹基式で,長さ27mm,幅20mm,厚さ6mmを測る.欠損品.
 軽石製浮子 最大長100mm,最大幅96mm,厚さ80mmを測る.このほかにも小片が数点存在する.この土器は,鶴見貞雄氏が分類した粗製器台のBⅠa類に対比できる(鶴見貞雄「粗製器台の用途を考える-高崎貝塚出土の器台形土器を例にして-」研究ノート3 平成6年6月).
(千葉隆司)


第八図 第一号住居址出土遺物実測図(1)


第九図 第一号住居址出土遺物実測図(2)