第七章 出土埴輪の概要

 調査区内の墳丘と墳丘外部から出土した埴輪は,円筒埴輪と形像埴輪(人物・動物)に分類される.本書に収録した埴輪は,その主要なものである.
 円筒埴輪の分類,記述にあたっては,『塚廻り古墳群』群馬県教育委員会(昭和55年3月),筆者らが発掘調査に関係した『小幡北山埴輪制作遺跡』茨城町教育委員会(平成元年2月)の方式に準拠して記述をすすめたいと思う.しかしながら,円筒埴輪の形態分類に関しては,従来の一般的分類法によると,普通円筒埴輪と朝顔形円筒埴輪という二大別方式が行われてきた.前者の普通円筒埴輪のなかには,いくつかの形態が含まれており,その型式を容易に理解(類別把握)しえない部分があり,かならずしも適切な分類用語とはいいがたいように考えられる.
 管見によると,県内をはじめ隣県出土の円筒埴輪を例にとってみただけでも,基本的には,A直立して円筒状を呈するもの〈直立形〉,B直線状に外傾するもの〈外傾形〉,C体部から漸次外反して開くもの〈外反形〉とに類別でき,さらに各類は若干の細別(たとえばA12…のように)を行うことにより形状を具体的に説明しうると思う.
 本古墳から出土した円筒埴輪を観察すると,実測図に示すように,朝顔形を呈するものは存在せず,主体となるものはBの外傾形とCの外反形に含まれる円筒埴輪であるといえよう.若干の資料については,器形と口縁部,凸帯,底部および透孔の関係を明らかにできる事例がある.また主要な破片類は,各部位(口縁部,体部,底部)ごとに分類を行ってみた.
 口縁部(口唇部を含む)について
 口縁部(第4段)の資料は,外傾または外反する度合の特徴によって,次のように大別される.
 A ほぼ直線状に外傾して開くもの
 B 口唇部付近でやや角度を変えて外傾するもの
 C 上半部付近からゆるやかに外反しながら開くもの
 D 上半部から強く外反して開くもの
 資料的に分類可能な破片はそれほど多くないが,それらを観察すると,Cの形態に含められるものが多くみられ,A・B・DとくにAとDに近似する仲間は少ないようである.
 口唇部については,図示した資料がすべてである.端部を方形に近く整えるものが多く,ついで端部を外側に僅かに突出または肥厚させるもの,端部が上方にやや突出するものなど,若干の種類が認められる.
 外面の調整は,刷毛状工具によって縦方向に施し,口唇部に近い内外面を指頭や布片などで横なでしている.とくに4の口縁部内側には,横なでの他に横刷毛も使用されている.前者の横なで調整手法は,ほとんど大部分のものにみられ,後者の横なで・横刷毛使用例は非常に少ない.
 体部について
 体部は凸帯と透孔により構成される.凸帯は,粘土紐を器面に貼付した後,指頭による横なで手法を行い調整する.その形状は次のように類別できるかと思う.
 A 断面が台形に近いもの
 B 断面の中央が僅かにくぼむもの
 完形品を観察すると,凸帯の本数は3本(第1~3凸帯)が基本である.また,透孔の位置は,第2段と第3段の中央付近で,各段とも相対して2個ずつ十字になるように穿孔される.形状はすべて略円形を呈し,大きさは直径5~7cmを測る.
 器面の調整は,外面が縦刷毛,内面が縦・斜位のなでを部分的に施している.
 底部について
 底部は断面の形状によって,おおむね次のような分類が可能かと思う.
 A 端部が方形に近いもの
 B 端部が両側にやや肥厚するもの
 C 端部が内側にやや肥厚するもの
 D 端部が外側にやや肥厚突出するもの
 E 端部が先細り気味のもの
 同一個体の一周する端部(完形底部)を検討すると,部分的に,たとえばAとB,BとCというように両者の形態が共存しているところがあり,A~Eに分類することで同一の個体を律することには,いささか無理がともなうように見受けられる.形状的には,B・C類を中心とした形態のものが多いかも知れない.
 器面の調整は,外面が縦方向の刷毛目を施し,内面が輪積成形痕の上に,縦位,横位,斜位のなでを加えている.

円筒埴輪分類模式図