2 形象埴輪

 A 人物埴輪(第二六~三〇,原色図版第二・三)
 人物埴輪は,男子と女子の他に武人,台部など数個体分を検出しているが,破損したものが多く完形に復元しうるものは存在しない.
 1 男子埴輪(第二六図1,原色図版第三)
 上半身は部分的に欠損し,腰部以下の下半身は存在しない.頭部上半の結髪は,中央から左右に分けてはね上がるように外反させ,下半の髪は両耳元に束ねて美豆良(みずら)とし,後方には垂髪していない.髪筋は刷毛目によって描かれる.眉・目・鼻・囗などを含む顔面の表現は,2の男子像の作風と酷似しており,同一工人の手になったものと考えてよかろう.美豆良は長さ約10cm,幅約3cmの粘土棒で表現し,4本の細い斜線は飾り紐になる.彩色は,頭髪・美豆良・頸部などにうすく残っているが,顔面には認められない.両腕は胸部前方に持ち上げている.腕に籠手がはめられる.手の甲から肘にかけて描く[×]印の沈線は縫目を表現する.指の先端部折損.この腕部にも僅かに彩色の痕跡が残る.上衣はとくに型式を表現しないが,全面に紺色というより鈍色(にびいろ)の彩色が施される.腰部には連続山形文を細い箟で抽出しか広帯がめぐり,左腰部に大刀を佩用していた剥離痕をとどめる.赤褐色を呈し焼成は良好である.

第二六図 形象埴輪(人物)実測図(1)

 2 男子埴輪(第二七図2,原色図版第三)
 男子埴輪の頭部である.顔面はほとんど無傷の状態で残り,後頭部の一部と美豆良は基部を残して欠損する.髪は頭頂部で左右に二分して外反させ,後頭部は耳もとに束ねて美豆良とする.髪筋は丁寧に刷毛目で描かれる.鼻.目.口などを含めた顔面は,極めて写実的な表現となり入念につくられている.なお,頭部上半の二分した結髪,右目の下(実測図の左側),顎の正面などに,紺色または鈍色(にびいろ)の顔料を塗布した痕跡が僅かに残る.焼成は良好で堅緻,色調は赤褐色を呈する.現存高18.5cm.
 3 女子埴輪(第二七図3,原色図版第三)
 髷の周縁部を僅かに欠失する.男子埴輪と同様に顔面は無傷で,極めて写実的に表現している.髪は頭頂部で分胴形の髷(長さ14.5cm,前端幅推定12.0cm,後端幅12.5cm,厚さ1.3cm)を板状につくり,中央で結髪する.髷の上面は平滑になで,刷毛目による髪筋はみられない.顔面の鼻筋はよく通り,先端が尖り気味となる.眉は男子よりやや低く,目は長く大きめに穿ち,口は短く一文字で,女性らしさがうかがわれる.両耳の中央に小さい盲孔があり,耳朶(みみたぶ)の下に環状の剥離痕もみられるので,耳飾りをつけていたことがわかる.頭髪と顔面には彩色は施されない.胎土・焼成は良好で黄褐色を呈する.現存高15.0cm.

第二七図 形象埴輪(人物)実測図(2)

 4 武人埴輪(第二八図4,原色図版第二)
 甲胄をつけた武人の埴輪である.上半身は右腕をはじめ部分的な欠失が多く,下半身は同一個体らしい足部や台部があるけれども,破片が不足し接合しない.顔面は右の目尻付近に損傷がみられ,美豆良は基部を残して欠失する.頭部は丸鋲でとめた衝角式(しょうかくしき)冑を被り,顔の側面に長方形の小札(こざね)を線刻した錣(しころ)を着けているが,後部は剥離する.頸部には丸玉を連ねて飾る.錣と同じように長方形小札を線彫した挂甲(けいこう)を着用し,左腰に長さ約32cmの大刀を佩用する.この大刀の柄頭と柄口には,弓形に湾曲した付属具が固定される.その外面に玉類の装着はないが勾金(まがりがね)を表現したものである.彩色は鈍色をもって下顎の正面,錣と挂甲の小札に市松模様で塗りわける.胎土と焼成は全体に良好であり,部分的に赤味を帯びるが黄褐色を呈する.

第二八図 形象埴輪(武人)実測図(3)

 人物埴輪破片一括(第二九・三〇図,図版第二七~二九)
 封土および裾部斜面を発掘中に,多くの円筒埴輪片に混在し,若干の人物埴輪片(頭部,首部,腕部,胴部,腰部,足部など)が発見された.それらのものは下記のような内容である.
 女子頭部の髷(1・2)
 1は分銅形に近い板状の島田髷で,頭頂部に結び目が残存する.2は結び目が残るので頭頂部の破片である.いずれも裏面に頭部から剥離した痕が認められる.黄褐色に近い別個体である.
 男子埴輪の美豆良(3)
 現存長約8.5cmの棒状を呈し,先端は丸めて突起状をなしている.黄褐色.
 武人埴輪の錣(11・12)
 顔の側面を覆う錣で長方形の小札を線刻する.11は左側面部の破片で赤褐色を呈する.12は小札の大きさが相違し黄褐色の別個体である.
 首・胸部(4)
 首に丸玉を連ねた頸飾をつけているが,中央の大きい玉は先端を欠失する.おそらくこの玉は匂玉であろう.胸部は平滑につくられている.
 腕・手部(5~10)
 中央より先端部は棒状の粘土を芯とし,後半部は粘上紐を巻き上げ中空に成形する.指は基部を残し欠失するものが多い.左手の中指を残した9には手甲の一部が認められる.10の腕首には丸玉を連ねた腕飾が残る.8は赤褐色,5~7・9・10は黄褐色である.
 胸~胴部(13~15)
 挂甲を着用した破片で,小札を方形・長方形に線刻する.13の胸部には鈍色の彩色が僅かに残存する.
 挂甲と大刀(16・20)
 長方形の小札を線刻した挂甲をつけ,左腰に大刀(柄頭欠失)を佩く武人の破片である.大刀の柄部には,匂金がとりつけられているが,上半部を欠失する.挂甲の小札には鈍色を彩色した痕がみられる.黄褐色.20も大刀であるが,柄頭の形状は頭椎(かぶつち)のように思われる.赤褐色.

第二九図 形象埴輪(人物)実測図(4)

 腰部(17・18)
 下半身の腰部から円筒形の基部に移行する破片である.縦刷毛目は下衣の裳(腰から下にまとった衣)を表現したものであろう.焼色はやや赤褐色に近い.
 脚・足部(19・21~23)
 19は脚の膝下で足もとを結んだ結び紐を表現し,その両側に鈍色が塗られる.22と23も別個体であるが脚部に相当する.後者には凸帯が貼付されているけれども,結び紐は存在しない.いずれも外面の調整は箟なでによる.

第三〇図 形象埴輪(人物)実測図(5)

 基部(第三一図,図版第三〇)
 形像(人物)埴輪の全身像を乗せる台で3体分が出土している.1の円筒部は,平面形が隅丸長方形に作られ,第2凸帯の上部に至って丸味を有する.凸帯は2本貼付される.基底部の外面は縦刷毛目,胴部の外面上半は斜めの指なで,下半部は縦刷毛目で調整し,短径部の側面に一対の透孔を施す.内面の調整は指なで痕を残す.上部の中央に小円孔を穿ち,その両側に足の剥離痕が並列する.色調は赤褐色を呈し,焼成は良好である.長径25.0cm,短径20.0cm,器厚1.5~2.0cm,現存高約28.0cmを測る.
 2の円筒部も隅丸長方形を呈し,上部は丸味をもち,その上に両足が乗る.両指先と足首の部分がいずれも剥離している.凸帯は2段に作出され,胴部側面に一対の透孔を施す.つくりは1の基部とほぼ同様で,上部中央に小円孔を穿つ.外面は基底部,胴部ともに縦の刷毛目で調整する.長径推定23.0cm,短径20.0cm,器厚1.5~2.0cm,現存高約27.0cmである.
 3の円筒形も平面形は隅丸長方形である.側面の一部と上部を欠損しているが,第2凸帯上のカーブを描く具合をみると,上部は前二者と同様の丸味をもつ形状になると思われる.凸帯間の外面には,縦方向の刷毛目調整,内面には斜めの指なで調整を施す.胴部側面に透孔一対が穿たれる.色調は黄褐色,焼成は良好である.長径推定約24.0cm,短径約21.0cm,器厚2.0cm,現存高約20.0cmを測る.出土位置から考えて,武人埴輪(第二八図)の基部と思われる.

第三一図 形象埴輪基部実測図

 B 動物埴輪(第三二図,図版第三一)
 すべて馬の破片に属するけれども欠落部位が多い.胎土・焼成などの違いから少なくとも2頭分の破片が含まれている.
 1と2は,轡(くつわ)を固定する鏡板(かがみいた)の破片で,剌突による列点文が鋲止めを表現する.前者は赤褐色で鈍色の塗布があり,後者は黄褐色を呈し,全く別の個体である.3は目から耳にかけての部分である.面繋(おもがい)の革帯を粘土紐で表現し,さらに円形の金具を粘土粒で貼りつけている.黄褐色.4は立髪の一部と思われる.5は鞍(くら)の前輪(まえわ)に相当するけれども,6の破片は前輪・後輪(しづわ)の区別が判然としない.両者は胎土と焼成が明らかに相違する.7は泥よけの障泥(あおり)の破片である.周縁は刺突による列点文で装飾する.足をのせる鐙(あぶみ)がみられないので,おそらく後半の破片になるだろう.表面は風化を受け荒れている.8と9は球状の土製品で,中央に箟の線刻を施した馬鈴である.前者には鈍色が塗彩される.直径は3.5~4.5cmの大きさを有する.10は後輪から尻にかけての部位で刺突列がめぐり,11には粘土紐で尻繋(しりがい)が表現される.尻尾は基部から欠損するが,先端部らしき部分は残っている.12~15は脚部の円筒である.現存長約25.0~30.0cm,直径12.5cm前後の大きさを有する.12は外面を箆により調整,13~15は縦刷毛目で調整している.前者は黄褐色,後者は赤褐色を呈し,明らかに個体を別にする.

第三二図 形象埴輪(馬)実測図


左図の復元した馬に茶色の着色を施した部分は,今回検出された破片の部位を示す.