第四章 出土埴輪の概要

 第五調査区を除く各調査区内においては,遺物出土状態図に示したように,多くの埴輪片が発見された.しかし,全形を復元できる資料は認められない.埴輪の破片は,すべて円筒埴輪の部類に属し,形象埴輪類は混在していない.
 円筒埴輪は,先の報告書のなかで分類した,いわゆる体部から漸次外反して開く外反形の円筒埴輪が大部分である.この他に第一次調査では未発見の朝顔形と思われる円筒が1例出土した.

第六図 円筒埴輪実測図(1)

 口縁部(口唇部を含む)について(第七図)
 口縁部の資料は,上半部付近からゆるやかに外反して開くC類の仲間,上半部から強く外反するD類などが一般的にみられる.また,上端部付近でやや角度を変えて外傾するB類に近いものも若干存在するが,小破片のために明確な分類は困難である.
 口唇部は図示した資料がほとんどすべてである.端部を方形に近く整えるものが多く,端部を外側に突出または肥厚させるものなどもある.外面の調整手法も,総じて第一次調査の出土埴輪に類似している.
 体部について(第七図)
 凸帯と透孔により構成される体部は,良好な大型破片が少ない.凸帯の形状は,断面が台形に近いもの,断面の中央が僅かにくぼむものなどにわけられる.完形品がないために凸帯の本数と透孔の位置は不明である.
 器面の調整は,外面が縦刷毛,内面が縦位,斜位または横位のなでを施している.

第七図 円筒埴輪実測図(2)

 底部について(第八図)
 底部は断面の形状によって,おおむね端部が方形に近いもの,端部が両側にやや肥厚するもの,端部が内側に肥厚するもの,端部が外側にやや突出するもの,端部が丸味を有するものなどにわけられる.
 器面の調整を観察すると,外面は縦方向の刷毛目,内面には斜めのなでを施したものが多い.

第八図 円筒埴輪実測図(3)

 円筒埴輪
 A 外反形円筒埴輪(第六・七図,図版第一三)
 接合資料1は,基底部から体部第1段下半と第3凸帯の上下付近を欠失している.体部はほとんど直線状に外傾して立ち上がり,口縁部に至って弱く外反する.この埴輪は,基底部1段,体部2段,口縁部1段の4段構成,凸帯は3本を貼付し,透孔は体部の2段と3段(一部残存)に各2個ずつ穿孔される.各部の外面は,縦位の刷毛目(工具幅約2.0cm,刷毛目数8本/cm)で調整する.口唇部は横なでを施す.内面の調整は,口唇部の横なでを除くと,体部と底部に斜めの指なでを施しているが,部分的に積み上げ痕を残す.焼成良好,黄褐色.第二調査区出土.
 3-155は,基底部と第1凸帯,体部第1段の下部を残す円筒で,口縁部は多分外反するものと考えられる.凸帯は断面の中央が僅かにくぼむB類に該当する.体部の第1段には,2個の相対する透孔(径約4.5cm)が配置穿孔されている.外面は縦位の刷毛目(工具幅約2.0cm,刷毛目数8本/cm)を施す.内面の調整は,ほぼ全面に指頭による縦方向のなでを行っている.現存高約19.0cm,底径13.0cm,器厚1.2~1.5cmを測る.焼成良好,赤褐色.第三調整区出土.
B 朝顔形円筒埴輪(第六図,図版第一三)
 接合資料2は,基底部と口縁部を欠損している.口縁部は大きく外反して開くものと思われる.凸帯は頚部と体部に3本残存し,透孔は肩部に一対(径約6.0cm)と体部に1個(径2.5cm)存在する.外面の調製は,肩部が横なで,体部が縦刷毛(工具幅約2.0cm,刷毛目数8本/cm)を施す.内面は斜位の指なでを行い,所々に接合痕を残す.焼成普通,暗灰色.第三・四調査区出土.