1 水道改良工事目論見書

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 明治23年2月12日に公布された「水道条例」に,「市町村ニ於テ水道ヲ布設セントスルトキハ其目論見書ニ左ノ事項ヲ詳記」として,つぎのような項目を提示している。

第1 水道事務所ノ所在地

第2 水源ノ位置及其水量ノ概算,但図面及ビ水質ノ分析表ヲ添フヘシ

第3 水道線路及水道線路ニ沿フタル地名,貯水池,濾水場,喞水(しよくすい)場ノ位置但図面ヲ添フヘシ

第4 給水ノ区域,其人口及其1人1日ニ対スル平均給水量

第5 人口増殖及多量ノ水ヲ用フル製造場ニ対スル給水量増加ノ見込

第6 水圧ノ概算

第7 工事方法

第8 起工並竣功期限

第9 工費ノ総額,其収入支出ノ方法及其予算

第10 水料ノ等級,価格,水料徴収ノ方法及其経常収支ノ概算

 以上の内容を踏まえた,「前設計」と別筆で記入された毛筆の「水戸市下市水道改良工事目論見書」が,つぎのように現存する。


 (別筆)

 「前設計」

  水戸市下市水道改良工事目論見書

現在水戸市下市水道ハ,寛文年中ノ起工ニシテ爾来200有餘年ノ星霜ヲ経テ今日ニ至リシモノナレハ,到ル所腐朽破損ヲ生シ,之レヲ改修補繕スレハ,従テ腐朽破損シ如何ニ屢々修繕ヲ加フルモ其効ナク,汚水ノ侵入泥醬ノ混和日ニ月ニ倍シ甚タシキヲ見ルヲ以テ,目下ノ状態飲料水ニ適セサラントス。加フルニ伝染病患者比較的多数ヲ有スルモ,必意水道ニ起因スルナラン。實ニ之レガ改良ノ遅速ハ公衆衛生ヨリ生スルモ,将タ市ノ発展ヨリスルモ1日モ忽諸(こつしょ)ニ付(注1)ス可カラザルモノニシテ,前記改良ヲ計ルハ到底姑息(こそく)工事(注2)ノ能クスル所ニ非スト信シ,玆ニ改良ノ目論見ヲ要ス,因テ左ノ工事ヲ執行セントス。

(注1 おろそかにする。注2 一時のまにあわせ)

 水道事務所ノ所在地

水戸市下市本肴町2番地

 水源之位置及水量

水源ハ茨城県東茨城郡緑岡村大字千波字笠原新田地内不動山麓ヨリ湧出スル泉ニシテ,同泉ノ最少量流量ハ24時間ニ付2万146立方尺ナリ。

 水道線路及同線路ニ沿フタル地名 貯水池ノ位置

水路ハ前記不動山ヨリ東北ニ向ヘ,東茨城郡吉田村大字吉田地内ヲ経テ水戸市下市藤柄町ニ入リ,七軒町ヲ経テ本一町目ヨリ十町目及ヒ新町迄テヲ本線トシ,其他支線ヲ設ルコト別紙図面ノ通リ。(以下省略)

貯水池ハ,水源ヨリ約1,820間距離ニ於テ,吉田村大字吉田地内ニ設置ス其設計ハ別紙ノ通リ。(以下省略)

濾水地ハ設置セス。

 給水ノ区域及人口并ニ1人ニ対スル平均給水量

給水ノ区域ハ水戸市ノ一部 6,563人 1人1日ノ給水量ハ3立法(方カ)尺

 人口増殖及多量之水ヲ用ユル製造所等ニ対スル給水量増加ノ見込

現在人口6,563人ニシテ,水道布設ノ結果他ヨリ移住スルモノ及酒造家ノ増加其他製造所ノ創設等ヲ豫想シ,将来ノ人口7,000人ニ増加スルモノトシ,平均1人1日3立法(方カ)尺ヲ使用スルモノトシテ計画セリ。

 水圧ノ概算

最高1吋平方ニ付   殆ト圧力ヲ有セス

 工事之方法

水源零間ニ於テ第1溜桝ヲ設ケ,水源ヨリ20間ヲ隔ル所ニ第2溜桝ヲ設ク。之レヨリ以降,水源ヨリ1,820間ノ間ハ山ノ中腹ニ沿ヒ,20分1ノ勾配ヲ以テ内径1尺ノ土管ヲ布設シ,渓間横断スル所ハ両高所ニ於テ溜桝ヲ設ケ,其間ハ内径10吋ノ鋳鉄管ヲ布設ス。水源ヨリ延長約1,820間ノ位置ニ於テ貯水池ヲ築造ス。本桝ヨリ本町ヲ経テ新町ニ至ルモノヲ本桝トシ,其他ハ総テ支線トス。而シテ配水桝以下管ノ配置ハ,本線ノ内本四町目迄延長822間ハ内径8吋ノ鋳鉄管ヲ用ヒ。同所ヨリ新町六町目ニ至ル迄延長938間ハ内径6吋管ヲ用ヒ,支管延長3万6,591間ハ総テ内径3吋*管ヲ用フルモノトス。

(*1インチは約2.54センチメートル)

 右詳細ナル方法ハ別紙設計書之通リ。(以下省略)

 起工及ヒ竣工期限

起工ハ工費収入ノ日ヨリ3ヶ月以内ニシテ,竣工ハ起工ノ日ヨリ2ヶ年以内トス。

 工費ノ総額其収入支出方法及ヒ其概算

工費ノ総額ハ,金8万9,842円19銭ニシテ,其収入ハ1ヶ年7分ノ利付ニテ金5万9,895円19銭ノ市債ヲ起シ,工事ノ都合ニヨリ数回ニ借入及ヒ縣費ノ補助ヲ受入ス。支出ハ諸式購入又ハ使役ニ応シ,随時之レヲ支払モノトス。其概算ハ別紙ノ通リ。(以下省略)

 水量(料カ)等級価格徴収方法及ヒ経費支出ノ概算

 水量(料カ)ノ等級価格及ヒ徴収方法ハ別紙給水規則書ノ通リ。(以下省略)

 経常収支ノ概算ハ別紙之通リ。(以下省略)