地下水利用について調査研究を完了した大正9年9月に,今度は河川水利用の可能性についての調査を岡田卯之助技師に依頼している。
岡田技師は,水道施設やその経営上の経済的負担の軽減を計るため,電力などを多く使用するポンプ式でなく自然流下式による導水の可能地を水源とする選定を始めた。地形的面から市外の北西方向に位置し,那珂川に流入する藤井川の東茨城郡西郷村下古内(常北町)を実地に調査している。その結果,水量はあって利用可能であったが,水利組合との補償問題の難しさ,給水地区との高低落差が小さく自然流下方式の困難もあって,放棄した。そこで那珂川本流より引水することにし,上流の東茨城郡野口村(御前山村)近くまで踏査したが,必要となる落差のある所はなかった。これより上流で引水すれば,落差はあっても距離的な面から経費や工事上の問題も多くなって,自然流下方式の利点はなくなることが判明した。
このような調査経過のあと,自然流下方式ではなくポンプ方式による導水を採用することになる。12月に,東茨城郡渡里村大字渡里(市内渡里町)の那珂川沿岸に試掘井戸を掘り,河川水を浸透させて利用する自然ろ過方式を考えた。これによって入手した井戸水と近くの河川水を10数回にわたって採集し,県警察部衛生課に水質検査を依頼した。その結果について,つぎのような回答がある。
衛収第6450号
大正10年8月18日
茨城県警察部長 斎藤直橘
水戸市長 川田久喜殿
水質検査成績ニ関スル件
本月15日水土第176号ヲ以テ御照会ニ係ル標記ノ件,飲料水ニハ適セサルモノニ有之候モ,飲料水改良規程第14条ニ遵シ濾過スル時ハ良水ト相成ルモノト被認候条御了知相成度候也
下市水道のように水源より直接通水することはできないが,適切なるろ過方式を用いるならば飲料水として良水(最適水)となるとある。この時の岡田技師による試掘などを中心とした調査は,大正11年1月に報告書として提出され,以後の水戸全市水道の基本となる。
これら調査が進行中の大正10年4月12日,水戸駅前に火災があって,大正7年に新築移転した南三ノ丸の市庁舎も類焼の恐れがあった。当時の消防方式は,水利の問題もあって炎上中は家屋の消火ではなく,延焼防止のために隣接家屋の破壊をすることが多かった。このような防火体制を心配した川田市長は,水道布設のための事業計画の早期作成を関係者に督促している。そのときいくつかの事業試案ができ,つぎのものはその1つである。
水道事業収支目論見書
1 供給区域
水戸市及常磐村トス,戸数ハ5,875戸,ウチ水戸市5,315戸,常磐村560戸,人口ハ2万9,393人,ウチ水戸市2万6,763人,常磐村2,630人(大正10年10月1日国勢調査)
1人1日平均給水量 5立方尺
2 人口増殖ニ対スル給水増加ノ見込
人口増殖ノ割合ハ,水戸市常磐村ヤヽ同一テ平均毎年水戸市ハ1,310人,常磐村ハ130人ノ増加ヲ示シ,10年後ニ於ケル水道供給見込数ハ左ノ如シ。
戸数 8,533戸 人口 42,666人
3 事業収支計画
本計画ニ於テハ,用水量ハ10ケ年後ノ増加人口ニ対シ企画シ,収入金使用料ハ大正10年ノ調査,即チ現在ノ戸数人口ヲ以テシ事業実施ニ際シ違算ナキコトヲ期シタリ。
尚実際ニハ各栓種別1戸1栓ノ外,支栓増設栓,ソノ他計量,放任,噴水等高料金ヲ課スヘキモノアレトモ,之レ等ハ収入ヲ増加スルモノナルヲ以テ事業実施ノ安全ヲ計ランニハ,省略スルヲ適当ナリト認メタルニヨリ収入計算ニ含マス。
4 栓種別戸数(既設水道栓種別ニ比シ算出)
公設共用栓 2,996 全供給戸数ノ100分ノ51
私設共用栓 1,234 同上 100分ノ21
私設専用栓 1,175 同上 100分ノ20
計量専用栓 470 同上 100分ノ8
5 料金(1栓1ケ月)
公設共用栓 5人迄20銭 以上1人ヲ増ス毎ニ3銭
私設共用栓 同 40銭 同 4銭
私設専用栓 同 70銭 同 7銭
計量専用栓 1石ヲ1銭5厘トシ以上1石ニ付キ1銭乃至1銭1厘トス
6 水道工事費予算
金160万円 水道布設総工事費既往ノ経験ニヨリ総工事費ノ4分ノ1ハ国庫ノ補助アリ,又其2分ノ1ハ県費ノ補助アリヲ以テ,実際ニ要スル事業費ハ次ノ如シ
金40万円 国庫補助金
金20万円 県費補助金
金100万円 事業費支出金
7 市債
実支出金100万円ハ市債ニヨルモノニシテ年7分利2ケ年措置,30ケ年賦償還トス,仮ニ大正12年ヨリ始ムルモノトスレハ
大正12年利子7万円 市費ヨリ支出
大正13年同 同
大正14年元利償還金8万586円40銭水道料金並ニ付加税
大正43年迄同様元利償還ヲナシ債務ヲ完済ス
8 各年ノ収支予算
収入
金10万711円65銭 毎年ノ収入金
内
金5万1,028円36銭 1ケ年間ノ水道料金
金4万9,683円29銭 市一般負担(付加税)(県税戸数割26,233ノ1倍9分ニ当ル)
支出
金10万711円65銭 毎年ノ支出金
内
金8万586円40銭 市債30ケ年賦償還金
金2万125円25銭 水道係1ケ年経常費
水道供給経常費 1万2,085円
水道係事業所費 7,040円
以上の試案の特色は,1,給水区域は水戸市と常磐村である。2,給水量は1人1日平均5立方尺とする。3,給水計画は10年後の住民数4万2,666人とするなどであった。
このような川田市長の熱心な指導もあって,水戸市内各界の水道に関する認識は高まったが,大正12年2月3日に市長が退任して,それは一時中断した状況になってしまった。