3 昭和4年11月11日の市会

249 ~ 256

 昭和4年は,ニューヨーク株式市場の崩壊から始まる世界大恐慌の時期に入ったが,日本の場合は昭和2年以来の金融恐慌とかさなって深刻な不況時代にいたる年となった。すなわち,物価の暴落と大量の失業者が続出して,経済界ばかりではなく社会全体が暗い時代に入った。

 土木工事などについてみれば,物価の低下によって生活費が下がり日当も安くなった。そのため工事費関係は目にみえて安価になってきた。これについての内務省や県当局より指導を受けた市の関係者は,実情にあう設計額の試算をするため,材料費や労働賃金の調査をした。その結果10.3パーセントの減額が可能となったことにより,議案として昭和4年11月7日の市会につぎのような関連項目として提案された。

  市会議案第62号 水道布設工事施行議決変更ノ件

  市会議案第63号 水道布設費起債変更ノ件

  市会議案第64号 水道布設費補助申請議決中変更ノ件

  市会議案第65号 [自昭和4年度/至昭和6年度]水戸市水道費継続年期及支出方法

  市会議案第66号 市基本財産繰入並繰戻方法

  市会議案第67号 水道費特別税戸数割並水道使用料新旧区域負担割合変更ノ件

  市会議案第68号 水戸市特別税戸数割条例中改正条例

  市会議案第69号 水戸市水道給水条例設定ノ件

  市会議案第70号 昭和4年度水戸市水道布設費歳入歳出更正予算

 これらは,第69号議案を除いては,昭和3年6月25日の市会で議決されたもので,全てその変更として提案され,11月11日に議決されている。つぎにその内容について記述する。第62号議案は,布設工事施行の工事設計説明書中の工事費の変更で,総額250万円の89.7パーセントの225万円で工事は可能と試算された。その内訳は表のようで,測量及製図費,検査費には変化がなかったが,鉄骨や鉄管そして単純労働費が多い部門の項目では減額が大きい。


水道布設工事費予算(昭和4年11月11日議決)

 その他の支出については,表のように試算され,これを充足するような内容で,収入の予定が作られた。


水道布設工事費等支出予定

 収入部に予定した補助金は,3年案と同じ図のように,給水料が増加して起債償還の資金ができるまでの補給的な意味を持たせて,国庫より14か年で56万2,500円,県より12か年で45万円をと計画された。


水道布設工事費等収入予定

 起債については,昭和3年6月25日には昭和4年度50万円同5年度100万円同6年度75万円で合計225万円を年利8分で借入れ30か年賦で償還と議決した。それが今回は,つぎの第63号議案のように,210万円を昭和4年度に50万円,同5年度に90万円,同6年度に70万円と年7分の利率で借入れ,22か年賦で償還と大きく変えている。昭和3年度案では利子だけで408万5,851円90銭となるが,昭和4年度案では234万8,784円となり,元金の額と利率償還年数に相違があるので当然ではあるが,利子はかつての金額の57.5パーセントにしかならず,173万7,067円90銭も市民の負担が少なくてすむことになった。それでも借入れ額より24万8,784円も多くの利子を市民は負担するので,それだけでも大変な事業であった。しかも,予定償還額444万8,784円の52.8パーセントは利子の支払い分であり,いかに借入れが問題の多いものか理解できる。しかし,自己資金がなく,市民の保健衛生上早期完成が絶対に必要なる事業のため,これらの犠牲はさけられないものであった。しかしこれを決意して実行しようとする関係者の気持はどのようなものであったか,少しの油断も許されない,あとには戻れない1日1日が試練の毎日であったと思われる。


国・県費補助申請額の年次予定

     起債並起債方法利息ノ定率及償還方法

第1条 本市水道布設費ニ充ツル為昭和4年度ヨリ同6年度迄ニ金210万円ヲ左記ノ通地方貸付資金逓信省又ハ銀行会社其ノ他ヨリ借入レルモノトス,但シ工事進捗ノ都合ニ依リ起債額ノ一部ヲ繰下ケ又ハ繰上ケスルコトヲ得

    昭和4年度   金50万円     昭和5年度   金90万円

    昭和6年度   金70万円

第2条 各年度起債借入期日ハ借入先ト協定スルモノトス

第3条 本起債ハ必要アルトキハ債権ヲ発行スルコトヲ得 此ノ場合ニ於ケル債権発行価格ハ額面金額ト同額トス

   債権発行ニ関スル細則ハ市長之ヲ定ム

第4条 本起債ノ利率ハ年7分以内トス

第5条 本起債ハ借入ノ日ヨリ昭和6年度迄据置キ昭和7年度ヨリ同28年度ニ至ル22箇年賦トシ別紙償還年次表ノ通リ償還ス 但シ毎年度償還期日ハ借入先ト協定スルモノトス本起債ハ財政ノ都合ニヨリ繰上ケ償還ヲ為シ又ハ償還年限ヲ短縮シ若ハ低利債ニ借替ヲ為スコトヲ得

第6条 経済界ノ状況本公債募集ニ適当ナラサル場合又ハ市長ニ於テ本市財政上本公債募集ヲ不利益ト認ムルトキハ 償還年限5年以内ヲ限度トシテ借入金ヲ為シ又ハ短期債ヲ発行シテ本事業費ニ充ツルコトヲ得 此ノ場合ニ在リテハ借入金又ハ短期債ノ償還マテ本公債募集ノ時期ヲ延長スルコトヲ得

第7条 本起債ノ償還財源ハ国庫補助金,県補助金,水道使用料,市税及其ノ他ノ市一般歳入ヲ以テ之ニ充ツ


起債償還年次と金額

 市有財産の水道布設工事に繰り入れる金額は,昭和4年度に5万円,同5年度に1万円,同6年度に5万5,000円,同7年度に3万5,000円と合計15万円であった。これは同8年度の水道費から市有財産に繰り戻す計画で,その金額は同27年度までの20か年間は7,200円ずつで,最後の28年度だけが6,000円とされた。

 市会議案第67号は水道費特別税戸数割と水道使用料の新旧区域負担割合の変更であった。これに関して戸数割では,第68号議案で「水戸市特別税戸数割条例」の改正を提案して,使用料については第69号議案で「水戸市水道給水条例」の設定を提案している。それらの変更内容は,基本的考え方の点ではなく,工事費等の減額にともなう数字上の問題が主なものであった。

 このときの「水戸市水道給水条例」は,昭和5年3月14日に内務・大蔵両大臣に許可申請がなされ,7月29日に認められ,昭和6年4月1日に施行された。これによって,明治45年6月に発布された給水条例は廃止されている。

 条例の形式は通則,給水及装置,給水工事及工費,給水料,違背者処分の5章と付則,全体が38条よりなる。給水には「飲料炊事洗濯等普通家事用」の放任法と,「営業上又ハ官署公署学校病院等」や「特ニ多量ノ給水ヲ要ス」るなど予定できない水量を使用する場合は計量器を使用させる計量法とがあった。放任法には,1戸の専用使用の専用栓給水,2戸以上の共同使用の私設共用栓給水,公費で街路などに設置し多数家庭に給水する公設共用栓給水があった。市ではできるだけ専用栓利用者を多くしたいため,賃貸価格1か月15円以上の家屋に居住する者,直接国税年額7円以上を納める者には共用栓の使用を認めなかった。工事上の問題があって該当者で共用栓利用者には専用栓料金を徴収することにもなっていた。計量法も,洗湯業者は多量の水を使用することから,料金表は乙の36立方メートルが基本とされ,その他は18立方メートルの甲を適用するなど,業種による特殊事情も充分考慮している。その他の給水料は表のようである。また,計量のための量水器は,有償貸付で工事費は利用者負担となり,その使用料と試験手数料は表のようである。


給水料


量水器の料金

 このように詳細に規定されたこの給水条例も,全市水道通水の年である昭和7年3月15日に新たに水戸市給水条例が設定されたために,廃止となった。

 以上の議案を前提にした第65号議案「水道費継続年期及支出方法」には,表のように3か年度の継続支出とその収入源について計算を示した。


水道布設費の年度別支出

 布設関連全体の支出である昭和3年時の案284万7,424円や同4年時の案248万8,039円の3か年度の支払い割合は,図のようになり,その傾向に大きな相違点はみられない。ただ,3年時の案で年度の差が15.1パーセントで43万円であるのに対して,4年時の案では14.5パーセントで35万9,931円となっている。


水道布設費支出の年度別変化

 これを項目ごとに分けてみると,布設費と公債費については2案とも同傾向にあるが,事務所費については5年度は差がないがそれ以外では大きく相違している。なお,全体として施行2年目には各項目とも総経費の35から40パーセントの支出を見込むなど,この事業の山がこの年度にあったことが理解できる。これらを図のように,項目別年度別支出の割合でみると,全体として総工事費の減額にともなって公債費を圧縮したことが判明する。これに対して事務所費は金額的には減額したが,全体の経費のなかでは布設費の割合上の増加と同様の傾向にある。


水道布設項目別・年度別支出の割合

 工事費の減額処置の必要になった日当や月給などについては,市会議案第70号の「昭和4年度水戸市水道布設費歳入歳出更正予算」に,水戸市での昭和4年当時の数字がでている。給料は年俸・月俸(月給)と日給の3組があり,表のように換算すれば,日給にして11円54銭の技師からその約16分の1である70銭の給仕まで6段階あった。


昭和4年当時の給料


昭和初期の水戸市付近図