7 条件付認可

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 水戸市の全市水道の起債案書類が,大蔵省理財局国債課において査定中であることを知った鈴木市長をはじめ市当局は,7月10日より同16日まで上京して説明を繰り返した。当時,水道事業認可申請は数十件も提出され,しかもその中で水戸市の事業経費額が最大なもので,査定には問題があった。ただ,担当の小原事務官が,水戸市当局に好意的で,各種の説明にも積極的に反応を示してくれたことから,認可は秒読みの段階に入ったと判断するようになった。

 当時,市会での問題はつぎのように4つあった。1.水道問題の認可について積極的に運動を試みる事,2.水戸刑務所移転問題実現の件,3.公認競馬場を水戸付近に認可されるよう運動を試みる事,4.水戸煙草専売局の善後処置。

 公認競馬場については,市会が水戸市発展策の一つとして陳情書を提出していた。

 専売局の善後処置とは,現在のような両切りタバコの需要が多くなったのに,水戸ではそれが製造されず,品不足のため混乱が生じていた。その対策として水戸で製造し,供給量を増加させること。また,大町にあるタバコ収納庫を移転させ,水戸高等女学校(現在の水戸第二高等学校)のグラウンド拡張に利用したいことなどであった。

 昭和5年7月19日付で,西野元に送った鈴木市長の手紙の草稿がある。それによると,水道起債の件について大蔵省の小原事務官の調査は終了したが,同省内には下市水道区域には消火用として幹線のみの鉄管布設だけを許可するとの意見がある。下市水道に25万9,000余円の補償をするため,水道特別税戸数割を新旧区域不均一にするのは,理論的にすれば不合理との説もある。が,「多年調査研究の結果此処に上下市の一致を見たる次第に付,万一右協定破るるか如きこと」があっては,両者ともに「事毎に疎隔を来し,市政上の影響」が大きく,「将来に禍根」を残すことになる。「本件は実に水道事業の実現するや否やの岐るる処」であるため,過般もお願い申したように国債課長と理財局長によろしく御助言いただきたいとある。


鈴木市長の手紙(水道布設についての基本的考えを記す)

 以上のこともあって,水道起債の正式認可書類のできる7月29日より4日早い25日には認可の連絡を受け,その報告と「是れ偏に貴下御尽力の賜」と記した礼状を同日に送っている。

 以上のような市関係者の努力によって,大蔵省内での決裁はつぎつぎと進行していった。その情報を上京して詳細に説明していた全市水道案設計者の岡田卯之助が,再び2通の電報によって,つぎのように伝えてきた。

  第1報 昭和5年7月25日午前10時51分

   小原氏ノ尽力ニテ局長迄決裁スミマシタ 岡田


岡田氏よりの電報(昭和5年7月25日)

 局長とは大蔵省理財局長のことで,このつぎは次官ということになる。

  第2報 昭和5年7月28日午後0時35分

   起債認可サレタ御都合上京願ウ


起債認可決定連絡の電報(昭和5年7月28日)

 大正13年以来の全市水道布設設計が,この大臣の決裁によってこの時点で完全に実現可能の案となった。東京駅内から発せられた25文字の電文は,短いながらも,関係者の諸々の気持を伝えているように思われる。

 正式な認可は,申請したように布設の認可と起債の認可と2通で,7月29日付で,つぎのように茨城県庁を経て伝達されている。

 布設については,内務省茨衛第1号で内務省の衛生局長と土木局長の連名によって,茨城県知事に「水道布設認可ニ関シ通牒」が発せられた。それによると,「昭和3年12月27日付水土発第158号ヲ以テ進達有之候貴管下水戸市水道布設ノ件」は,条件付で認可されるとある。認可は,写真のように内務大臣安達謙蔵の名で,「昭和3年7月5日水土第176号並昭和4年11月27日付水土第600号申請」についてなされた。


水道布設の認可書(昭和5年7月29日)

 そのときの別途指令による条件はつぎのように5項目あった。

 1 水源集水深ハ計画ノ位置ヨリ少クトモ1米5ノ深所ニ埋設スルコト

 2 受水井ニハ波止壁ヲ作リ 量水ノ完全ヲ期スルコト

 3 調整池ノ覆蓋ニ桁張式床版トシ道流壁ハ柱壁混合式トスルヲ可ト認メラルルニ付再調ノコト

 4 調整池ニハ側管路ヲ設ケ 濾水カ直接高揚「ポンプ」井ニ入ル様ナシ置クコト

 5 総工費中鉄管 鉄材工及ヒ「セメント」ノ価格 時価ヲ斟酌スルニ高価ニ遇クルモノアリ 合計9万6,000円は減額ノ余地アルモ 集水埋渠費及受水井工事ニ関スル前記1.2ノ条件ヲ実施スルトキハ 約3万6,000円ノ増工費ヲ要スル見込ニ付差引合計6万円ハ節約ノコト尚予備濾過池並給水「ポンプ」予備3台ハ 現在急施スルノ必要ナキモノト被認ニ付当分ノ間之カ工事ヲ見合ハスコト

 なお,これらの認可指令書は,昭和5年8月1日付で茨城県内務部長名で通告され,新たに認可条件にもとづく「改訂シタル実施設計目論見書2部」の至急提出が要求された。

 起債については,つぎのように内務省地方局長と大蔵省理財局長の連名で茨城県知事に対して更正指示の付いた許可通達があった。県当局は,それを受けて同文の指令を8月1日付で水戸市に「充分の御留意ノ上事業遂行上遺憾ナキヲ期セラレ度」と伝えた。

内務省茨地第12号

昭和5年7月29日

茨城県知事殿

                                内務省地方局長(印)

     起債ノ件依命通牒                   大蔵省理財局長(印)

貴県下水戸市稟請標設ノ件別紙ノ通更正許可相成候処左記事項御示達相成度

             記

1 起債額ハ事業年度中ニ於ケル補助金全額ヲ事業費ニ充当スルヲ適当ト認メ之ニ物価下落ニ伴フ不要工事費差当リ急於ヲ要セサル予備濾過池ノ築造費及予備喞筒3台ノ購入費並不要利子見込額ヲ合シ減額セラレタルコト

1 償還期間ハ右減額ニ伴ヒ短縮セラレタルコト

1 市有地売却代金予定通収入ナキ場合ト雖増起債ヲ為シ又ハ償還年限ヲ延長セザルコト

1 基本財産繰戻ハ起債ノ償還ヲ終ル迄出来得ル限リ停止シ 起債ノ繰上ケ償還又ハ戸数割 軽減ヲ図ルコト

1 地方貸付資金20万5,000円供給ノ義承認セラレタルコト

1 償還年次表更正議決ノ上報告スルコト

1 工事ノ実施ニ当リテハ出来得ル限リ節約ヲ図リ起債ノ減額ニ努ムルコト

1 鉄管其ノ他諸材料ハ出来得ル限リ国産品ヲ使用スルコト

1 給水料ハ新旧地域ヲ通シ可成均一トスルコト

1 本会計ノ経理ニ当リテハ財政計画以上ノ特別税戸数割等ノ増徴ヲ為サザルコト

 以上のような送状とともに,水戸市に対しては,図のような内務大臣安達謙蔵と大蔵大臣井上準之助の連名による正式な許可証が届けられた。

  内務省茨地第12号

           茨城県水戸市

  昭和4年12月24日水庶第1401号稟請起債ノ件左ノ通更正シ許可ス

   昭和5年7月29日

内務大臣 安達謙蔵

大蔵大臣 井上準之助


起債更生の許可書(昭和5年7月29日)

 また,それには,昭和4年11月11日の市会で議決し,同年12月24日に認可申請した起債条件を,具体的に更正指示したつぎのような「記」が付記されていた。

第1条 上水道布設費ニ充ツル為メ昭和5年度ニ於テ金50万円,昭和6年度ニ於テ金80万円,昭和7年度ニ於テ金60万円,計金190万円ヲ逓信省,銀行,会社其ノ他ヨリ借入ルモノトス。但シ工事進捗ノ都合ニ依リ,起債額ノ一部ヲ繰下ケ又ハ繰上ケ借入スルコトヲ得。

第5条中 「昭和6年度迄据置キ」ヲ「昭和7年度迄据置キ」ニ「昭和7年度ヨリ同28年度ニ至ル22箇年賦」ヲ「昭和8年度ヨリ同27年度ニ至ル20箇年賦」ニ改ム。

第6条ニ左ノ2項ヲ加フ

前項ノ短期債ハ別表ニ依ル場合ノ外,本公債ノ募集金ヲ以テ償還スルモノトス。

短起債ヲ起ス場合ト雖,別表ノ償還年次表ヲ延長シ又ハ定額ヲ繰越スコトヲ得ス。

 以上のような政府による更正指令付認可によって,水戸市全市水道布設工事費の起債はつぎのように確定された。

    水戸市水道布設費起債並起債方法利息ノ定率及償還方法

第1条 本市上水道布設費ニ充ツル為

昭和5年度ニ於テ 金 50万円

昭和6年度ニ於テ 金 80万円

昭和7年度ニ於テ 金 60万円

       計 金190万円

ヲ逓信省銀行会社其ノ他ヨリ借入ルルモトス 但シ工事進捗ノ都合ニヨリ起債額ノ一部ヲ繰下ケ又ハ繰上ケ借入スルコトヲ得

第2条 各年度起債借入期日ハ借入先ト協定スルモノトス

第3条 本起債ハ必要アルトキハ債券ヲ発行スルコトヲ得 此ノ場合ニ於ケル債権発行価格ハ額面金額ト同額トス

債権発行ニ関スル細則ハ市長之ヲ定ム

第4条 本起債ノ利率ハ年7分以内トス

第5条 本起債ハ借入ノ日ヨリ昭和7年度迄据置キ 昭和8年度ヨリ同27年度ニ経ル20ケ年賦トシ 別紙償還年次表ノ通償還ス 但シ毎年度償還期日ハ借入先ト協定スルモノトス

   本起債ハ財政ノ都合ニヨリ繰上ケ償還ヲ為シ 又ハ償還年限ヲ短縮シ 若ハ低利債ニ借替ヲ為スコトヲ得

第6条 経済界ノ状況本公債募集ニ適当ナラサル場合 又ハ市長ニ於テ本市財政上公債ノ募集ヲ不利益ト認ムルトキハ 償還年限5年以内ヲ限度トシテ借入金ヲ為シ 又ハ短期債ヲ発行シテ本事業費ニ充ツルコトヲ得 此ノ場合ニ在リテハ借入金又ハ短期債ノ償還マテ本公債募集ノ時期ヲ延長スルコトヲ得

   前項ノ短期債ハ別表ニ依ル場合ノ外本公債ノ募集金ヲ以テ償還スルモノトス

   短期債ヲ起ス場合ト雖別表ノ償還年次ヲ延長シ又ハ定額ヲ繰越スコトヲ得ス

第7条 本公債ノ償還財源ハ国庫補助金 県費補助 水道使用料 市税及其ノ他ノ市一般歳入ヲ以テ之ニ充ツ