1 用地の確保

363 ~ 370

 ○買収

 昭和5年9月9日,水道工事着工に必要なる測量調査のため,水源地帯に立入りする許可を,知事につぎのように申請した。

  第274号

 昭和5年9月9日  水戸市長 鈴木文次郎

  茨城県知事 牛島省三殿

   土地立入測量許可申請

 本市上水道布設調査ノ為左記ノ通土地立入測量致度候ニ付御許可相成度此段申請候也

   記

1 水戸市上水道布設調査ノ為

2 立入ルヘキ土地ノ区域(別紙図面ノ通)(省略)

 東茨城郡渡里村ノ1部

 那珂郡国田村ノ1部

3 予定期間

 御許可ノ日ヨリ100日間

 この申請については県の理解と事前打合せが充分であったこともあり,翌10日には写真のような許可書が出された。これを受けて11日には渡里村長と国田村長とに知事よりの許可内容を伝え,測量調査の実施を通知している。


立入測量の許可書(昭和5年9月10日)

 実際の測量作業は,同月15日から18日までの4日間,つぎのような場所でなされた。

 水源予定地  渡里村地先ノ中州

 導水管路・浄水場排水管路予定地 渡里村字芦山

 浄水場予定地 渡里村字稲荷宮・下久禰

 送水管路予定地 渡里村字下久禰・ミソウ作・上石井・小山ノ上

 高区配水塔予定地 渡里村字小山ノ上

 低区配水塔予定地 水戸市北三ノ丸

 これ以前の9月5日,鈴木市長は渡里村役場に村長を訪問し,同村字台渡里地区に予定した浄水配水敷地約4,000坪,送水管敷設地約2,000坪,配水塔敷地約400坪の買収について斡旋を依頼した。また,同日,飯富・柳河・国田など近辺村役場を廻って,水道布設事業について説明し,協力をも依頼している。

 翌6日には,市会の水道庶務部委員会が,後藤土木課長の案内で森工務部長,小泉経理部長,鈴木市長など市首脳陣とともに,水源予定地の渡里村字芦山などを視察している。


芦山浄水場建設予定地

 9月8日には,用地買収の価格を決定するため,渡里圷区長・茨城農工銀行・水戸税務署・水戸区裁判所(登記所)などに予定地区の標準的価格を照会し,つぎの表のような回答があった。なお,低区配水塔予定地の水戸市北三ノ丸については,登記所だけが宅地は坪で上が25円,中で20円,下で18円,畑は反で上が1,500円,中で900円,下で300円と通知している。これらの調査により,総坪数8,222坪を1万8,205円で買収する計画を作成した。以上のような基礎作業とともに,渡里村の村会議員中山常松と渡里区長中山捨次郎に地主との斡旋を依頼するなど買収交渉体制の確立も始めた。


土地価格の調査(昭和5年9月8日の照会に対する回答)

 9月15・16の両日は,市の谷庶務課長と後藤土木課長が,村会議員や区長の案内で予定地の土地所有者49軒を戸別訪問し,協力を依頼,買収作業のための承認を求めた。

 つづいて,同月25日の午後1時より,渡里村字芦山にある香積寺に,先に関係者が個別訪問していた土地所有者全員を集め,市長や関係課長,市会水道関係者多数の出席で,市の買収予定価格を提示して協力を求めた。その日午前中に,市長は用地買収の戸別的下交渉が地元区長などの協力で予想以上の進展をしていたので,水道関係の嘱託・技師長以下技手や書記の任命をし,事務所を開設させた。これらの市内外の気運をもとに,買収作業を前進させようと土地所有者に熱心に水道布設の必要性とその施設予定の重要性を説明した。


買収予定価格


香積寺の付近図(渡里村)


水源用地(渡里村)


浄水場付属敷地(渡里村)


浄水場排水管路敷地(渡里村)


低区配水塔敷地(水戸市)


高区配水塔敷地(渡里村)


送水管路敷地(渡里村)


浄水場用地(渡里村)

 参集してこれらの要請を受けた土地所有者たちは,後日協議して回答すると即答をせず,市との交渉を続けるため地主会を組織して代表者を選出した。その後,地主会は寺門正明ら9人の委員を中心に協議をし,区長などの斡旋もあって市水道布設に協力することに決定した。ただ,価格については,「私達は祖先伝来の土地を手放すのでして全くつらいのです」として,田1反1,500円,畑1反1,000円,宅地1坪10円なら相当の補償額であろうと協定が成立した。

 26日に地主会の代表寺門正明の来庁を受け,正式に地主要求額の説明を聞いた市長は驚いた。公表した買収予定価格より田は2倍(市予定750円),畑は1.7倍(市予定575円),宅地は2.6倍(市予定3円75銭)で,予想もしない高価格であった。市と地主会は,ともに双方の事情を説明し,再考を約して別れた。買収作業の初めに考えられた,短期間での契約は不可能になったことを市長は感じたが,10月7日まで数回の交渉を根気強く続けている。

 8日の市水道庶務委員会では,地主会の要求額とその姿勢の説明を受け,委員の中には話し合いによる妥協は不可能になったと,土地収用法の適用による強制買収を主張する者もでてきた。しかし,委員会としては,提案した買収予定価格は充分に研究したる結果であり,再考の余地がないと決定した。これを受けて市長は,地主会委員につぎのような通知をしている。

拝啓 昨日は遠路御来庁被下御足労様に奉存候 陳者水道用地買収価格の件 昨日の御申出に基き水道庶務委員会に報告致候処 同委員会も過般市より申上候価格は決して不相当のものには無之 尚これ以上増額の余地無之次第に付地主各位に於て篤と御考慮相願度との意見に付 御諒知被下度何卒地主側委員各位へ其の旨御伝へ被下可燃御斡旋相願度 此段御依頼旁々御通知まで申上候 敬具

 昭和5年10月8日

                              水戸市長 鈴木文次郎

 委員 中山常松殿


実施更正財政計画の用地費予算

 通知を受けた中山常松は,区長とともに関係者を訪問して市の意向を伝え,熱心に理解ある協力を説き10日に香積寺で地主協議会を開催する努力をした。その席では,市に対する土地所有者たちの態度も和らぎ,田1反歩800円,畑1反歩600円と要求額を切り下げた。この額をもとに,11日地主会の寺門正明が市長に価格の譲歩を伝えた。そして,過日の額以外では買収に応じないと申したのは,市の方であんまり安く値を踏んだので行きがかり上で,実際買って貰いたい値は本日申し出たものと説明した。

 市当局は,この経過をもとに市会水道3部会である庶務・工務・経理の合同委員会を開いて,土地所有者の要求を検討した。地主会は,市の態度の強いことを知り,市買収予定価格の売り渡を承認した。ここまで地主会が譲歩するようになった理由には種々あるが,全交渉過程で,鈴木市長の誠意を感じたこと,市が斡旋を依頼した人たちを中心にして地区民が水道事業についての深い認識を持ったことにも関係がある。

 市は地主会との合意をもとに,買収を終了している。


買収経過

 なお,財政計画にある用地費予算は,表のようであり,これと実際の買収状況とを比較すると大幅に安くなっている。坪数も計画の93.5パーセントにはなっているが,金額は60.2パーセントであり,単価は44.9パーセントとなる。時代的に不況の状況が続いたことはあるが,この買収工作をする人々の努力も大きかったし,価格を上げようとした土地所有者の苦しみも考えられる。


用地買収についての計画と実際