昭和5年12月1日の「いはらき新聞」は,「全市水道工事進捗,集水管埋設工事に次いて,直轄工事も明春着工」と題して,芦山に工事請負業者や市臨時水道部の出張事務所の建設が始まったこと,資材の順調な調達状況,各施設の設計書の完成などを報道している。
なお,市当局は各種資材の購入や工事の入札など経費が予想以上の低額で契約できていることから,景気が回復しないうちに工事を完了し,予算額の3分の2程度で水道布設事業を終了させて市民負担を軽減する方針を固めた。この指示を受けた岡田技師長以下関係者が,工期日程を短縮させる作業プランを作成した結果,それまでの3年計画を1年6か月で完了する見通しができた。その主な工事割は,表のようであり,昭和7年7月の「誰もが水に親しむの候盛大なる通水式が挙行される予定」とされ,その通りに完成されている。こうして人件費は節減され,市民の関心が持続されている短期間に全てが終了できた。8万人給水体制の施設でこのように短期間に完全な工事ができたのは,全国的に他に例がなかった。
しかし,その工程は,全てが順調であったのではない。紆余(うよ)曲折があり,工事ごとにみれば予定より大変に遅れ,一時は完成までも不可能と考えた人たちもいた。それを全体としてのバランスを維持し,各施設の工程を細分化して期間の短縮を計るなどの工程計画を作成,状況に応じて修正し,工事を遂行させることができた市臨時水道部の技術陣,それを支援した市会水道3部委員会の力量があったからできたのである。
以上の状況は,当時の「いはらき新聞」などにつぎのように報道されている。
昭和6年1月8日には「水源工事,着々進行す」と題し,「高速度の工程を樹て工事に着手した水戸市水道部は旧冬来工事を急いでゐ((い))た芦山地内の出張事務所が竣工した」こと,「集水管埋設工事は既にパイル150本が打込まれ那珂川の中州に周囲約550メートルの水源工事の半径が描かれた」こと,1月中旬からは「導水管の敷設,第1号濾過池の掘鑿に着手され,2月上旬には幹線に使用される大鉄管の引渡しが開始される」こと。
ところが,2月5日には,「市水道工事,予定工事が遅延,委員から進捗鞭撻」と題してつぎのようにある。工期繰上げプランで昼夜兼行予定の進捗に努めるはずであったが,掛声ばかりであること。1月中に完成予定であった水源工事のパイル打込が8分通りしかできていないこと。1月上旬に着工予定であった貯水池の掘削工事がまだ始まっていないこと。鉄管試験所が完成されていないため,契約通り1月中に輸送されている鉄管の引渡しができないでいること。1月上旬に開通予定であった水源地出張事務室と市役所内水道部との直接電話が,まだ架設されないため事務連絡が混乱していること。
それから2か月後の4月7日には,再び「全市水道,予定竣功は困難 水源地工事をはじめ進行計画に齟齬(そご)(くいちがい)を来す」とある。内容は,3月31日完成予定であった集水管埋設工事がパイル引抜き中のこと,導水管工事がパイル打込みになったこと,第1号ろ過池の掘削が続いていることなどと,第1期配水管布設工事が完全に1か月遅れた。そのため「現状斯く工事予定は順々に遅延し 目下の状態では1年半完成計画は到底困難なるべく従って予算の上にも追加の必要を生じはせぬかと憂慮されてゐ((い))る」とある。
ところが,8月8日には,「予定以上に進捗した 市水道工事の現況 市内配水鉄管は延長5里完成 炎天下に進む工程」と,導水管敷設,ポンプ場とろ過池・配水塔の建設,配水鉄管の布設の進行を報道しているので,各工事が関係者の努力によって急転直下進展したようである。
翌7年1月23日には,「全市水道工事 意外に進捗」と題し,つぎの表のような内容を記して1年1か月で全工程の約8割が達成されたとしている。また,その原因については,気候条件にめぐまれたことと,関係者の昼夜兼行という努力によるとしている。気候については,水源地工事着工以来,6月17日の降雨により翌18日に那珂川が増水して集水管埋設中の堀に漏水した以外,工事を中止させるような増水もなかったこと,今次の冬期気温が例年になく高かったためコンクリート作業が予定以上に進展したことである。
昭和7年1月22日現在の水道工事状況は,つぎのように伝えられる。
配水鉄管 請負業者と当局との合同作業 上市方面の埋設終了 下市本町通り幹線工事中全延長17町中約16里が敷設終了 2月下旬に完了予定
ろ過池 3面とも外壁工事完了でろ過層組立中 第1号ろ過池は第4段目の玉砂利層が終了し砂を敷く段階
調整池 地下24尺の鉄筋コンクリート工事終了 外壁工事中 4基の高揚ポンプは2月中に据付予定 5月末完了見込
高区配水塔 鉄骨のリベット工事終了 水槽と上屋の鉄板にリベット工事中 2月下旬に完了見込
低区配水塔 鉄骨組立中6分完成
鉄管試験所 4,800余トンを試験 3月下旬に全て終了見込
2月29日には,「1箇年半で完成さる 市水道工事」と題し,竣功していない施設は1分を残すポンプ場,2分を残す低区配水塔や高区配水塔の3ヵ所,それも3月中には完了する見込みと報道している。しかも,市当局はこの段階で完成を予定し,3月1日より給水申込みの受付けをすることとし,4月より1か月間鉄管洗浄のための通水,5月から飲料水を供給するという日程を作った。
しかし,着手届や竣功届など書類上に見られる工期は表のようであり,3月以降に完了したものが6種もあった。