昭和6年2月19日,水道全員委員会は集水埋管の工事費を,一部変更したことによる1,500円の追加支出を承認した。設計書によると,集水埋管は河土層の下部にある泥土層に全体の3分の1を埋め,その上部の砂利層に残りの3分の2を出す計画であった。ところが砂利層が浅く,管の延長150間の3分の2以上である110間がほとんど泥土層の中に没してしまい,浸透水量が予定量より減少することが明確になった。そこで,泥土層を大きく掘り上げて,人工的に砂利層を作ることに設計を変更したのである。
これらの作業を視察した市会水道委員の1人が,前述したように集水埋管の周囲につめる砂利の大きさについて,設計仕様書に違反して手抜きした不当工事と水道部に報告した。そこで,2月28日に関係者が現場において,現場監督者と請負人代理者の主任技師に厳重に注意をした。
この事情を知らされた大林組の土工たちは,3月1日に事実無根を主張し,釈明を求めて水源工事用の水道出張所に乱入した。それを阻止しようとした係員に暴行を加え,事務所内を荒した。連絡を受けた水戸警察署は,器物破損などの容疑で14人を連行し,取調べを始めた。
2日に,水道部は緊急水道全員委員会を開いて,前後策を協議し,事務所も視察し,請負業者の大林組現場主任技師とも相談して,連行された土工の釈放を水戸署に願い出た。このため,取調べも一段落したこともあり,4日には全員が帰宅を許された。ただ,乱入して,器物を破損することが多かった11名に対しては,暴力行為として送検されることになった。
これら事務所襲撃の直接原因は,視察した委員の不注意な発言ではあったが,その基底には現場監督や賃金に対する不満にあった。埋管周囲の砂利埋めに,砂利の選別のふるい方をきびしくされたこと。また,その労働の割には賃金が安かったことによるといえる。