ディーゼル・エンジン設備

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 昭和8年3月29日の市会で決定された「水道実施設計一部変更」の(理由)に,つぎのようにある。

万一災害ノ為長時間停電ノ事故在リタルトキハ速ニ自己発電ヲ為シ 以テ断水ヲ避クル為最少限度ノ予備機関トシテ「百馬力」ノ「ディーゼル・エンヂン」ヲ設置スルモノトス

 この問題については,当時水道課長であった高橋六郎が,水道協会雑誌(昭和11年2月号)に「予備発電設備に至る経過と其実績」と題して報告している。これを参考に,他の資料を加えて,芦山浄水場に予備動力源としてディーゼル・エンジンを導入した事情を説明する。

 昭和7年11月14日からよく15日にかけて,関東地方に大暴風雨が襲った。最大風速は27.3メートルにも達するもので,東部電力株式会社茨城支店の北三ノ丸変電所の常盤送電線(5万5,000ボルト・1回線)が故障し,水戸市内外は午後1時30分に23分間,同4時37分に1分間,同6時1分に1分間,同6時13分に4分間の停電をした。ところが,同7時25分には,常盤送電線を旧送電線(2万5,000ボルト・1回線)・新送電線(2万5,000ボルト・1回線)の全送電線が故障し,変電所も被害を受けて送電は完全に不可能となってしまった。

 水戸市水道の両配水塔貯水能力は,3時間供給体制で計画されていたため,停電の長期化で断水の心配がでてきた。風雨の中での水道課員の制水弁の調整,未明に非常招集させた市長を始めとした市職員の市民に対する水道使用の節約宣伝活動などによって,水道給水は15日午前10時まで,停電下で約15時間,計画時間の5倍も持続させることができた。

 浄水場に送電が開始されたのは,15日午後1時55分で,断水はすでに約4時間も続いたあとであった。その間,市民は,全市水道通水後5か月目のことであったため,井戸を残している者が多かったので,一時的に飲料水は確保でき,大きな混乱はなかった。

 中崎俊秀市長は,この非常断水を教訓とした給水確保体制の樹立を指示した。もともと全市水道計画の時点で,浄水場の受電を完全に確保するために,送電線路を基本線以外の異なった方向より予備線として設け,送電線の事故に備えた。それは,水戸の変電所よりの2回線であって,変電所までの送電線に異状が発生した場合には,これに対処する方法はなかった。東部電力株式会社においても,送電3回線は同一方向の発電所からであって,災害に備えた別発電所系統の送電線確保はできていなかった。

 その対応策として,他電力会社よりの買電を検討した。東京電燈株式会社が,猪苗代発電系線より栃木県の小山を経由して東京に送電しているのを購入する方法であった。必要電力量の確保の面では安全であったが,経済的に問題があった。同社は東部電力と異なる50サイクルの周波数で,水戸の浄水場で利用する場合は,それを60サイクルに補正する高額の設備投資が必要となること。長距離送電線の布設費とその維持管理費が膨大なものであること。これらを電力会社の負担とすることは,電力料金からして不可能であり,利用者の負担となれば市の財政上から現実性がない。

 送電関係だけからすると,浄水場より約10キロメートル地点の東茨城郡西郷村(現在の常北町内)に発電所のあった藤井川電力株式会社が条件に適合した。大正2年5月に竣功した会社で,現在の常北町の西郷地区・小松地区,桂村の岩船地区,七会村,笠間市の大池田地区に,周波数60サイクルで,常時出力160キロワットで供給していた。

 供給余力は,夜間80キロワットで日中は130キロワットになり,浄水場予備電力として充分と考えられた。設備費にしても,送電線路費は8,200円,発電所側設備450円,浄水場側設備650円となって合計9,300円にすぎず,料金単価も比較的安価であり,経費面での問題はなかった。ただ,過去の記録にある最大の渇水期には,他区内での電灯利用分しかなく,市浄水場に対する送電は不可能となり,非常供給源としての意味はなくなる。

 以上の検討経過から,自家発電を採用することになった。その方法として火力発電,ガソリン・エンジン,ディーゼル・エンジンの3つが考えられた。火力発電は,予備動力としては停電時の切替え操作と燃料価格上の問題があって対象外となり,ガソリンとディーゼルとの比較は,機能上と経済面から充分になされた。


[表]

 結果的に予備電力源として,ディーゼル・エンジンを採用することになった。その出力は,実際使用量の最低限度として100馬力と試算し,昭和8年3月31日の認可申請はできている。その後,浄水場使用の総馬力315の平均使用量を限度とすることになり,150馬力に変更された。その間,表のような申請と認可の繰り返しも展開されている。


自家用電気工作物の申請と認可


水道用自家電気工作施設関係認可書

 経費については,7年度水道布設工事費起債残額中の2万円とされた。ディーゼル・エンジンは,4社の指名入札で清水市の伊藤鉄工所が,エンジンを1万3,200円,機関据付を300円,重油貯蔵庫を500円の合計1万4,000円で落札した。工事請負契約は昭和9年1月10日で,竣功期限は同年3月31日とされた。