1 水道非常防備心得

589 ~ 591 / 1103 ページ

 昭和7年9月15日のお月見の夜より翌16日まで,水戸地方には63ミリ,坪当り1石4斗3升の雨量があった。大杉山下の那珂川は増水して,三ノ丸の刑務所下の川沿いにあった桑畑2反歩が冠水している。市街地では,千波湖より那珂川に通じる悪水流出川(馬場川・赤沼川または桜川とも呼ばれる)が増水し,常磐線赤沼町ガード下より細谷にいたる道路に冠水し,交通が一時中断された。

 同年11月15日にも那珂川は増水し,赤沼川に逆流して赤沼町一帯に溢れ出た。また,雨水が低地に溜まって,市内の藤柄町で50戸,紺屋町で11戸,吉田で27戸,浜田で1戸の床下浸水があった。

 昭和8年8月15日には,14日からの豪雨によって那珂川が増水し,いつものように赤沼川に逆流して氾濫し,赤沼町ガード下より蘋町にかけての路面に冠水している。また,付近の住宅にも流れ込み6戸の床下浸水があった。

 以上のように,これまでの那珂川増水は市街地だけの冠水警戒だけであったが,全市水道の水源と浄水場が河川内や河床・河岸に作られたことより,那珂川の増水に対する考え方が異なってきた。

 昭和9年11月1日午後9時ごろより,水戸地方は暴風雨になり,那珂川は増水した。浄水場主任海老沢民之助は,水道施設を守るため,浄水場係員を非常召集して,1日午後9時半より2日の午後11時半までの27時間,警戒体制をとった。その間,増水が水道原水(伏流水)に及ぼす影響を観察して,つぎのような報告を同月5日市長にしている。

河水増水シ田畑等ヨリ土壌・汚物等河水ニ流レ込ミタル結果,河川表面水濁水ト化ス,之ヲ観察スルニ,増水1日午後10時ヨリ12時ニ至ル3米,増水ニ於ケル表面水ノ濁度ハ最モ甚シク,伏流水ニ於テハ漸次増加シ始メタルヲ知ル,翌2日午前2時増水3.5米ニ於テハ,表面水ノ濁度ハ漸次稀薄ト為リ,伏流水ハ濁度及色度最高トナレリ.

更ニ5,6時間後ハ増水最高5米ニ至リタルモ,表面水及伏流水ノ濁・色度ハ漸減シ特ニ表面水場ヲ流下セル汚物(ワラ,木片等)ハ殆ト認メス,土塊ノ混入ハ甚タ減シタルヲ見ル.アンモニアノ反応ハ表面水,伏流水共ニ増水12時間後(表面水ニ於テ濁度最モ甚シキ際)ニ現ハレ其レヨリ2時間後ハ其ノ量最モ多シ,以後漸減セリ,之レ降雨ニ依リ田畑ニ施セル肥料ヨリ来リタルモノナリ.亜硝酸ハ前後ヲ通ジテ存在セスト認メシモ,増水12時間ノ際ハ痕跡ノ反応アリタリ.

 昭和10年9月25日にも,21日からの豪雨によって那珂川が増水した。午後5時には浄水場の排水管から汚水の逆流が心配され,高橋課長を始め水道課員が総動員で,徹夜で排水作業をし,浄水場の安全を守った。

 これらの経験と,昭和12年7月に始まった日中戦争で,「現に出征せられつゝある将兵各位のご苦労に做ひ(い),われら水道人も亦銃後の護りをより強固にし,以て水道の維持・管理上に於て些も不安なからしむことが緊急且つ肝要であることを痛感」し,水道防備体制を確立することになった。

 その基本は,同12年7月17日に「水道非常防備心得」として発表され,同月20日より施行されることになった。これによって水道課員は,日常の業務以外に非常時には特別勤務にも従事することになる。

第1条 非常防備ノ為必要アルトキハ市長ノ命ニ依ル水道工作物ノ防備ニ従事スルモノトス

第2条 防備部長ハ水道課長ヲ以テ之ニ充ツ 防備部ハ之ヲ左ノ各係ニ分チ各係ニ係長ヲ置ク

    庶務係  物資係  連絡係  警戒係  浄水場係

   前項ニ規定スル庶務係長ハ庶務係主任,物資係長ハ材料係主任,連絡係長ハ給水係主任,警戒係長ハ工務係主任,浄水場係長ハ浄水場係主任ヲ以テ之ニ充ツ

第3条 各係ノ分掌概目左ノ如シ

   庶務係

    1 防備計画ノ立案

    1 防備ニ関スル庶務一般

    1 公傷者ノ収容並看護

   物資係

    1 防備物資ノ調達並受払

    1 防備物資ノ配給

   連絡係

    1 防備係ノ連絡方法立案

    1 通信機関ノ応急修理

    1 通信非常連絡

    1 非常防備通報

   警戒係

    1 市内工作物ノ警戒

    1 吉田配水池並旧水道ノ警備

    1 低区配水塔ノ警備

    1 水道水圧変化ニ関スル調査・警戒

    1 浄水場係トノ警戒連絡

   浄水場係

    1 喞筒場並〔ディーゼル・エンジン〕室ノ防備

    1 濾過池引出口ノ警戒

    1 塩素滅菌室警戒並滅菌方法ノ非常変更

    1 濾過池並調整池ヲ使用シ能ハサルニ至リタル場合ニ於ケル非常処置

    1 高区配水塔ノ警備

    1 高区配水塔ヨリノ直送操作

    1 浄水場並高区配水塔及送水本管(市内ノ分ヲ除ク)非常警戒

第4条 各係長ハ前条ニ依リ其ノ係ノ防備計画ヲ樹テ 防備部長ニ報告スヘシ

第5条 防備計画細目ハ市長ノ承認ヲ経テ防備部長之ヲ定ム

第6条 左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ハ市長ノ指揮ヲ受クルコトヲ要ス

    1 濾過池其ノ他水道工作物ニ危害ヲ受クルノ虞アルトキ

    2 濾過操作ヲ省略シテ送水スル場合

    3 喞筒場ヨリ配水管ニ直送スル場合前項第1号ニ該当スル場合ハ憲兵分隊及警察署,第3号ニ該当スル場合ハ警察署ヘ之ヲ通知スヘシ

第7条 非常警戒ヲ為サムトスルトキハ直ニ市長ニ報告シ 其ノ指揮ヲ受クヘシ但シ指揮ヲ受クルノ暇ナキトキハ速ニ其ノ概要ヲ報告スヘシ

第8条 非常警戒中ハ勤務時限ニ拘ラス其ノ解除命令アルニ至ルマデ勤務場所ヲ離ルルコト得ス 但シ上司ノ指揮ニ依ル場合ハ此ノ限ニ在ラス

第9条 本心得ニ関スル細目ハ防備部長ニ於テ之ヲ定ム 但シ本条ニ依リ細目ヲ定メタルトキハ速ニ市長ニ報告スヘシ

    付記

第10条 本心得ハ昭和12年7月20日ヨリ之ヲ施行ス

 以上の心得によって,水道課長を防備部長とし,5人の主任を係長に,職員を各係に任命して体制を樹立した。各係長は,心得の第4条によって,第3条の各係分掌概目の具体的細目を立案し,係業務の任務を遂行することを命じられた。