給水係主任の坂場時尹は,連絡係長としてつぎのような係細目を決定し,防備部長の水道課長に報告した。
連絡係水道防備心得細目
第1条 非常警戒ノ為非常召集命令アリタルトキハ係長は速ニ別表ニ依リ各部署ニ就カシムルモノトス
前項非常召集命令ノ伝達方法左ノ如シ
1 電話連絡アル者ニ対シテハ直ニ速報シ其ノ他ノ伝達ハ左記ノ順位ニ依リ之ニ当タラシム
イ 安達書記
ロ 菊地監視
ハ 間宮監視
ニ 助川監視
ホ 千種監視
2 係員 住所並氏名左ノ如シ(省略)
前項命令書ハ予メ準備シ係長ニ於テ蔵置スヘシ
第2条 係員非常通知ヲ受ケタルトキハ制服ヲ着シ「ゲートル」ヲ着ケ其ノ部署ニ就クヘシ
第3条 連絡係ノ常備物資左ノ如シ 但シ非常防備物資ハ材料係長ニ之ヲ請求スヘシ
1 普通防備物資
イ 連絡係日誌 1冊
ロ 自転車用電灯 5個
ハ 通信用紙 5部
ニ 機密封筒 若干
2 非常防備物資
イ 自転車 5台
ロ 携帯電話 1個
ハ プラスタン用具 1式
ニ 修理道具 1式
ホ ラバー線 1,000米
第4条 前条物資ノ外連絡係長ニ於テ必要アリト認ムル場合ハ 左ノ物件ヲ請求スルコトヲ得
イ 電柱 ロ 枕木 ハ 銅線 ニ 根枷丸太 ホ 碍子
第5条 応急班ハ江崎技工ヲシテ当ラシメ仍助力ヲ要スルモノアルトキハ小野瀬雇ヲ以テ補充ス
前項ノ方法ヲ以テ之ヲ処理シ難トキハ浄水場係長ニ通報シ長谷川技工ヲ応援セシム
第6条 電話不通ト為リタルトキハ徒歩又ハ自転車ヲ以テ連絡セシム 但シ要急ナルモノアルトキハ自動車ヲ使用スルコトヲ得 此ノ場合ニ於テハ直ニ防備部長追認ヲ受クヘシ
これらによって,7月20日には「水道防備計画細目」と防備の人員編成が決定した。防備計画細目は,水道工作物のどのような部分を,どのようにして保守するかが主になるため,また,戦時対策の中の国内治安維持の目的もありその全体は機密とされた。全体の計画は市長と助役・防備部長だけの参与事項とされ,連絡打合せ会においても各係長は記録を取ることが一切禁止された。そのため最高責任者3人以外で,当時においても詳細な計画に参与したり,理解した者はなかった。現在は,その記録も存在しておらず,具体的内容は不明である。
ただ,細目の全体は,第1章が総則,第2章が水道工作物に危害迫りたる場合の各種工作物の具体的防備方法,第3章が不幸にして危害を受けた場合の工作物の操作と復旧工作に関する具体的規定と伝えられる。すなわち非常の場合における水道工作物の種類別に,その操作方法と第1・第2・第3段階までの対処方法が記述されていたらしい。
以上の心得・細目にもとづいて,7月20日に水道課職員の「水道防備編成」が庁達として発表された。それは非常編成(A体制)と普通編成(B体制)の両編成よりなった。A体制は,指令があった場合は日常業務を放棄して,勤務時間以外の場合は召集命令を受けて,それぞれ事前に定められていた場所に出頭することになる。B体制は,日常の業務に従事し,指令によって定められている工作を遂行できるよう待機姿勢を取ることとされた。このB体制は,他の官公署勤務者とは大きく相違し,その後市水道課職員の日常勤務体制となっている。
これら防備体制を推進するために,つぎのような防備心得細目が,9月1日施行として発せられた。
水道非常防備心得細目
第1条 水道非常防備心得(以下心得ト称ス)第9条ニ依ル細目以下各条ノ如シ
第2条 非常通知ヲ受ケタルトキハ防備方法ニ付直ニ市長ノ指揮ヲ受クヘシ 但シ当宿直員ニ於テ本通知ヲ受ケタルトキハ防備部長ニ即報スヘシ
第3条 非常警戒ノ為ニスル非常召集ハ防備部長ヨリ各係長ニ通知シ各係長ハ速ニ各所属員ヲ所定部署ニ就カシムルモノトス 但シ各係員ノ部署ハ別ニ之ヲ定ム
第4条 防備事務執行中ハ係員ニ於テ必ス其ノ所在ヲ明カニシ置キ 之ヲ部長ニ申報シ置クヘシ 但シ急施ヲ要シ其ノ暇ナキ場合ハ必ズ欠席者ニ申継ヲ為シ置クヘシ
第5条 部長ニ於テ必要アリト認ムルトキハ数係ヲ連合シ又ハ他ノ係ノ一部ヲ以テ共同処理セシムルコトアルヘシ
第6条 緊急ヲ要スル場合ハ各係員其ノ担任以外ノ事務ト雖之ヲ処理スルコトヲ得 但シ此ノ場合ハ速ニ上司ノ追認ヲ受クヘシ
第7条 防備従事中ニ於ケル通信並連絡ニ就テハ通信用紙(第1号様式)ヲ使用スヘシ
但シ機密ヲ要スル事件ニ付テハ必ス機密封筒(第2号様式)ヲ使用スヘシ
第8条 本細目ハ昭和12年9月1日ヨリ之ヲ施行ス