2 昭和13年9月の洪水

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 昭和13年の6月30日から7月1日にかけての洪水は,のちに昭和13年第1次洪水と呼ばれた。それは同年8月27日の正午ごろから暴風雨になり,午後2時に那珂川の水位が5メートル,同6時には7.2メートルとなり,このとき水戸市と青柳村間の万代橋が流失するなど水戸の交通が混乱する大災害もあったため,これが第2次洪水と呼ばれたこと。同年9月1日にも那珂川は大洪水となり,これが第3次洪水と呼ばれることになったことなどによる。これら3回の洪水で,水道施設にとって最大の災害となったのは第3次洪水である。水道関係では8月27日の洪水による被害がなかったため,9月1日洪水を第2次洪水と称することが多い。

 8月31日,八丈島あたりから北上して来た台風が,9月1日午前1時に三浦半島に上陸し,7時間近くもかかって関東地方を北上して午前9時ごろ新潟県に抜けた。水戸では風が強く吹いていたが8月31日が曇のち雨,9月1日が午前中雨で午後は曇であって,雨量はそれほど多くなかった。しかし,9月1日だけでも塩原が230ミリ,西那須が193ミリ,茂木が180ミリ,烏山が167ミリなどと那珂川上流地帯での降水量は多かった。


昭和13年第3次洪水時水戸の降水量

 那珂川の水位は,9月1日の午前2時に3.07メートルで,同6時には4.15メートル,同8時には4.8メートルとなった。午前9時の水戸測候所「気象特報」で,気圧751ミリ,風向は南東,風速毎秒9メートルとの発表以外に「河川は氾濫し相当被害ある見込」とあった。それまで,水戸地方での降水量は少なかったが,台風という面からある程度の警戒体制は必要であろうと準備はしていたが,測候所の発表を受けて急ぎ非常警戒体制を通達した。浄水場係を中心に第1次洪水時と同様の勤務割りとし,他の水道課員には待機を命じた。

 正午には水位が6.62メートルとなり,水流も速く,根こそぎにされた立木や橋の材料らしい木材などの漂流物が多くなり,大洪水の様相を呈した。水道課では,6月30日に決壊したままの浄水場隣りの県堤防を,至急復旧する必要を感じ,渡里村大字圷の区長と青年団に協力を依頼している。


那珂川の最大水位

 午後4時には7.65メートルの水位となり,濁流は護岸の防風・保安林を越えて畑地に流れ始めた。同5時30分,増水の状況を心配し,防備命令を発して土のう300俵の用意,排水管弁の閉鎖,本部待機の来援を求めた。

 県堤防決壊か所の締切作業は,6時48分に水位が8.6メートルとなって水圧に押され,完全に失敗した。この段階で,浄水場は巨大な河川中の浮島状となり,不安定な存在となった。7時30分には,6月30日の最高水位9.2メートルとなり,増水の傾向がまだあった。高橋水道課長は海老沢民之助浄水場主任と相談し,場内浸水を完全に阻止することが不可能とみて,岡野助役に断水告知の準備と軍隊来援の依頼を伝えている。

 8時30分に将兵120名の応援が到着したが,同45分には水位が9.5メートルとなり,場内浸水は時間の問題となってしまった。そこで断水時間の短縮化と洪水終了後の早期配水を計画し,ポンプ類の取外し,引き上げ作業を9時26分より始めた。8台のポンプのうち,配水塔に送水する高揚ポンプ(高区用45馬力2台,低区用40馬力1台)3台だけは,最終段階まで運転することにしたので,残る5台を11時までかかって安全地点に引上げた。それは2メートル程度の高さに木製の馬形枠を作り,これに乗せたのである。

 午後10時55分,ついに水位は9.9メートルとなり,濁流が周囲土堤を越えることが明確になったため,場内各施設のうちろ過池・量水室・調整池などの引出弁と引入弁を閉じ,泥水の侵入の阻止を策した。この作業中,浄水場に浸水が始まり,11時15分に水位が10.1メートルとなって場内は完全に濁流で覆われた。このような水中で,3,300ボルトの高圧電力を使用したポンプ運転は危険であったため,受電開閉器が閉じられ,ポンプと電灯が同時に止められ,場内から明かりとポンプの音が消えた。これに代わって,闇の中から,濁流の無気味な音だけが響き,浄水場の機能は昭和7年7月1日に給水を開始してからはじめて止まった。

 浄水場で防備作業に従事していた人たちは,自分たちの仕事が報われたのかどうか,考える力もないほど疲労し,ポンプ室の屋上に座り込んでしまった。隣にいる人の顔も充分に判別できない暗い闇の中で,今後どのようになるか知れない濁流に包囲されて,普段であるなら恐ろしさがあるはずなのに,この時はそのようなことを感じる余裕もなかったという。


昭和13年9月1日の洪水計数


芦山浄水場近くの冠水した堤防


洪水時の芦山浄水場


水門橋付近浸水状況(昭和13年9月2日)

芦山浄水場内の浸水状況

塩素滅菌室


調整池付近


ポンプ室内

洪水災害状況(昭和13年9月1日)
 
災害状況      復旧状況

浄水場裏門


排水管破裂のため土堤崩壊


浄水場内のヘドロ堆積