4 水防訓練演習

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 昭和13年に3回もあった那珂川洪水を教訓として,水道の水害対策を主とした非常編成を確立することになった。12年の「水道非常防備心得」をもとに,水道課長を中心に,各係主任を本編成の主査として職員を各係に配置する。そして水害時には,日常業務を従として防備を主とする基本方針のもとに,つぎのような内容が決定された。

    水害非常防備細目

  1 庶務係  物資配給その他庶務一般事項,但し時宜に依り材料係と協力のこと

  2 応援係  他の係の要求に依り応援する為め待機,但し徴収係及集納係充つ

  3 給水係  水害状況視察並報告事項

  4 材料係  応急材料及物資の調達並配給

  5 工事係  被害工作物応急復旧

  6 工務係  水位観測並連絡・継通信及び市内配水管の警戒

  7 浄水場係 イ 土堤警戒係 ロ 喞筒場係 ハ 物資並食料品係 ニ 記録及び水位観測係

 水防の準備体制が完成したので,昭和14年には実際に水防の演習をし,関係職員の訓練をすることになった。その日を,災害のあった1年目にあたり,水戸市水道の記念日である7月15日とし,つぎのような演習要項が定められた。

1 訓練演習日時 7月15日正午以降

2 当日ハ総ベテ「非常服装」ヲ為シ 午前7時マデニ出勤シ 直チニ各自ノ常務ニ服シ待機スルコト

3 非常編成ニ関スル命令ハ同日正午以降ニ於テ発令サル見込ニ就キ ソノ際ハ直チニ非常編成細目ニヨル各部署ニ就クコト

4 命令解除,非常編成解除ノ命令アルト同時ニ当日ノ宿直員以外ノ者ハ総ベテ浄水場ニ集合スルコト

 演習日の午前4時ごろ,低区配水塔に送水する芦山浄水場の低区高揚ポンプ2台中の1台が,ボール・ベアリングが破損して運転が不可能となった。これを分解して修理中の午前10時には,運が悪く残ったポンプも故障し,運転ができなくなった。そのため揚水ができなくなり,低区給水区域内に対する送水に心配がでてきた。この日は,正午に33度になるなど酷暑でもあり,故障した時間が1日のうちでも最大の送水を必要とする時でもあって,応急的に高区配水塔系統より連絡弁によって補給に努めた。しかし,低区系統の必要量は補給できず,制水弁を調節して一部の減水などもしている。

 その間に故障個所が判明したため部品の交換をすることにしたが,水道課にも市内の業者にも在庫はなかった。ポンプを製造した日立製作所は,この日より16日までは年1回のめずらしい2日間連続の休み(盆休み)であり,関係者が不在であって連絡も不充分で,部品を保管してある場所も判明しなかった。そこで,急場の処置として1台のポンプを完全に分解し,それを部品として他のポンプの修理をし,最小限度の送水量を確保した。

 ポンプ修理が終了するのを待って,午後2時4分に,市長は水防訓練の演習命令を出した。ポンプの故障という実際の水道非常防備と演習の洪水防備編成命令が,つづいた。

   非常編成命令

  訓練ノ間水道防備部員ハ非常編成ニ依ル各部署ニ就クヘシ

   昭和14年7月15日

                   水戸市長 中崎俊秀

 このときの水防浄水場係は海老沢民之助主任を主査にして,総務班・水質班・ポンプ班・ろ過池班・滅菌機班・警戒班の6班体制が命令されていた。また,総務班には現場との連絡や各種想定命令についての記録,警戒班には水源と浄水場周囲土堤の防備,正門の門扉の(角落)作業,場内の制水弁の操作が任務として追加されている。


昭和14年7月15日の水防訓練の経過

 場内の中央には,演習統監部が特別に設置され,市長代理の岡野助役が統監として視察していた。以下,演習を順に説明する。

 動員された防備部員全員が,それぞれの持場に到着した午後2時35分に,場内掲示板に情報が示された。「那珂川水位5.8m」「風雨強カルベシ,各河川ニ対シ充分警戒ヲ要ス」と。

 午後2時50分には,那珂川の水位が6.1メートルとなり,浄水場の地盤より水位の方が高くなってきたので,場内への浸水危険が心配された。その対策として防備部長より防備命令 ①「那珂川水位上昇シ河水ガ排水管ヨリ逆流シ来ル虞アリ,第5号人孔制水弁ヲ閉鎖スベシ」が出た。これによってろ過池の水位を低下させ,できるだけ余水が排流しないようにして排水管の利用を中止した。また,各施設の供試水を採取し,水質試験を実施して水質の保持に努めている。

 午後2時55分には那珂川の水位が7メートルと発表され,排水管閉鎖による余水の増加と正門よりの河水浸入が問題となる。そこで防備命令②ポンプ班に「場内第5号人孔付近ニ於テ余水排除ノ要アルニツキ排水ポンプヲ据付ケ,続イテ配線工事ヲモ施行スベシ」,警戒班には「浄水場付近ヨリ場内ヘ浸水スルノ危険アリ,コレガ防備ノ為メ門扉締切用ノ角落ソノ他ノ材料ヲ施設現場ニ持込ミ締切準備ヲ為スベシ」と出た。ポンプの据付けは,材料運搬と臨時配電盤取付け作業に35分かかり,午後3時30分に排水ポンプ運転が開始された。

 午後3時15分には,水位が8メートルとなり,防備命令③が警戒班に「浄水場正門危険切迫ス,直チニ正門ノ締切作業ヲ開始スベシ」,ポンプ班には「浄水場正門危険ノ為メ,低揚ポンプ室モ亦浸水スルノ危険迫リタルニ付キポンプ取外シ作業を開始スベシ」とあった。低揚ポンプは,浄水場地盤より4.46メートルも低い所に設置されているため,もっとも浸水の危険があった。このため取り外し,引き上げて保管するという作業は,全てに優先して進められたが,1台の処理に35分かかっている。その間,高区・低区の両配水塔に送水が不可能になることも想定し,送水ポンプを全面運転して満水位まで配水作業に努力していた。正門の締切作業は,13年の洪水時のように,場内の築山の土砂を俵に入れて利用するのであるが,今回は時間の関係もあって空俵の積上げだけとなった。

 午後3時25分には水位が8.5メートルになり,防備部長より防備命令④が出された。「那珂川ハ尚モ急激ニ増水シツツアリ,従テ或ハ浄水場周囲土堤ヲ越水スルヤモ計リ難キニ付キ高揚ポンプ第2号電動機ヲ取外シ,ポンプ室内1m以上ノ地点ニ引揚作業ヲ開始スベシ。尚ホ水道専用電話モ亦不通ト為ルノ虞アルヲ以テ移設スベシ」,また「那珂川増水ノ為メ,水質ニ変化ヲ招来スルヤモ計リ難キニ付毎30分毎ニ水質試験ヲ為シ,ソノ結果ヲ速報スベシ」とあった。

 これによって警戒班は,全員が浄水場周囲の土堤に配置され,漏水など異状の発見と排水ポンプの監視に努めた。ポンプ班は,ポンプ室内に用意しておいた高さ1メートルの木製台に,電動機を10分間で取り外して引き上げた。

 午後3時42分には水位が9メートルになり,防備命令⑤「愈々危険切迫セリ,就テハ事務所ヨリ重要物件ヲポンプ室上間ヘ搬出スベシ」が出た。この作業は13分で終了した。

 午後3時50分になると,水位は9.3メートルに達し,浄水場維持も最終的段階に入った。防備命令⑥も,「浄水場正門付近ノ県堤防約20mホド決潰シ浄水場内ヘモ浸水シ,甚シク危険ナル状態ト為リタルニ付キ運転ヲ休止スベシ,尚ポンプ班ハ低揚吸水井・量水井及ビ濾過池・調整池高揚吸水井ノ引出並ニ引入ノ各弇及ビ溢流管ノ弇ヲ閉鎖スベシ」と発せられた。これで全作業が中止されることになった。

 午後4時には水位が9.5メートルとなり,防備部署にいることも危険となったために,防備従事者を退去させることになった。防備命令⑦は,「水道防備スル全員ハ,直チニポンプ室上家ニ避難スベシ」「尚ホポンプ班ハ高圧3,500V電力遮断ヲ為シ重要器具ハデキルダケ携帯避難スベシ」と,総務班からメガホンで伝達された。


ポンプ室上屋における避難者と応急物資

 以上のような仮想洪水で,2時間の防備演習を無事に終了し,午後4時5分に非常編成の解除命令が出た。この命令は,浄水場以外で非常編成体制にあった市役所内の本部,高区と低区の配水塔の庶務・連絡・物資・警戒の各係長に伝達され,浄水場への集合も指令された。

 この訓練演習について,防備部長であった水道課長の高橋六郎は,「水道工作物の非常防備に就て(下)」(『水道』昭和14年3月)において,つぎのように評価している。

この重大なる非常時局に当り特に我等水道従業員は如何に,その与へられたる職分を護るべきかに就ての体験を実践すると共に万一不幸にして災害に遭遇したるときは,如何にして水道工作物を防備するかに就ての実習するにあったのであるが,その結果われら従業員の精神上に及ぼす好影響も亦多大であったのみならず,斯くの如き場合如何に全員が協力せねばならないかと言うことを強く感銘せしめ得たことは誠に大きな収穫であったと言わねばならない。