4 洪水の予知尺

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 市水道課は,昭和13年の連続した洪水を基本教訓として,その被害を最小限に食い止める対策の必要を考えた。そのため各種文献の蒐集や実地調査によって,那珂川洪水の構造研究を始めた。

 洪水の原因としては,那珂川流域の降雨量・河川水の流下を阻止するような風向・風速・地形そして人工的工作物,河川増水時における潮位の変化が考えられる。これらから,洪水を予知するためには,気象予報・流域各地の降雨状況・そして上流各地点の水位を入手し,過去における洪水状況と比較することによって可能となる。

 降雨量と洪水との関係では,図に見るように水戸地方での降雨量ではバラツキがあって明確でない。那珂川流域全体の平均降雨量との関係では,資料は不足しているがまとまりがみられ,関連性のあることが理解できる。


浄水場地先の洪水と降水量の関係

 このことから,下流の洪水位を知るには,上流における降雨の量や型と洪水の関係を研究する必要がでてくる。なぜなら,上流における様々の洪水の型が,中流においてある時間の経過後に下流の条件と複合して出現するからである。洪水波が,市芦山浄水場地点に出現する時間は,栃木県那須郡小川町からは10時間,同県烏山町からは9時間,茨城県那珂郡野口村(御前山村)からは5時間といわれている。そして市内の下市地区には約2時間で達する。このとき,上流の条件が一定でも,河口を中心とした下流の降雨量・風向と風速・潮・障害物などとの関係によって,どの洪水も同じではない。それぞれが特異な性格をもって出現する。これを前提として洪水波を調査すれば,その伝播の共通項目は把握できる。


那珂川の主流と洪水波

 以上の観点から,那珂川洪水の予知方式を研究したのが,市芦山浄水場主任を昭和15年6月3日から同20年3月31日まで勤めた出沢孝之助である。その結果,洪水位を予想する方式(「那珂川上流の調査」項で説明)を考案した。つぎの図はその方式によって,烏山町(栃木県那須郡境村宮原の烏山量水標,浄水場より48.5キロメートル地点)と野口村(茨城県那珂郡野口村野口大橋の野口量水標,浄水場より21.0キロメートル地点)の最高水位が,芦山浄水場地先にどように出現するか試算したものである。


洪水位予測方式の係数算出方法


上流水位と浄水場水位との関係

 これがもとになって,「洪水予知尺」が考案された。洪水位の推定は,予知尺の表面を使用して,それぞれ計算尺方式で算出する。(烏山水位)この地点で最高水位となった時刻の芦山浄水場地先での水位を予知尺のA目盛に求めて,これにB目盛の0位置を合わせる。それから,烏山町地先の那珂川最高水位より9時間以前の水位を引いて,増水位を求める。増水位の数をB目盛上に求め,それをA目盛で読めば,芦山浄水場地先にて出現する最高水位の数字となる。(野口水位)この地点で最高水位を示したときの芦山浄水場地先の水位をD目盛に求め,これにC目盛の0点を合わせる。そして,野口での最高水位から5時間以前の水位を引いた増水位数をC目盛に取り,その下に位置するD目盛を読めば,市芦山浄水場地先の最高水位の予想値となる。

 予知尺の裏には,洪水波の予定伝播時刻算出表と上流水位対照図も付けられていた。

洪水予知尺(出沢幸之助考案)

(表面)


(裏面)

参考 『那珂川の「洪水予知尺」について』出沢幸之助 茨城県水道会誌(第4号 昭和34年7月)

   『水戸市水害誌』 昭和24年3月31日発行 水戸市役所