三月二十二日(月)

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[表]
消印午後6時-7時
赤坂区青山南町
六の一〇八
 小宮豊隆様
    本郷曙町十三
      寺田寅彦


[裏]
「電車と風呂」の御批評早速難有、御批評一〻急所にふれて居て痛くなります 実は小生もあの鋳かけ松の前後が気になつて居た、それからおしまいの附録もいけないなと思はない事はなかつた、しかしもし何かで一般読者に見せるとするとなると何かあんなものを付けないと、僕の云つて居る事が少しも通じなくなりはしないかといふ心配があると思ひます。そんな心配は愚な事かも知れないが、折角読んで貰ふなら分つて貰いたいと思ふだけです。なんなら削つてもいゝ。御意見に任せます」新小説は僕も実はねらつて居ました、しかし匿名で出してくれゝば今の処其の方が都合がいゝやうな気がする。此の点で新小説が何と云ふかゞ疑問だと思ひます。別に強て名を隠す必要はないが、兎に角あの一篇の性質上「金米糖(コンペイトー)」位の匿名がふさはしいやうな気がするのです