六月二十日(木)

t202_045     t202_045
画像の拡大
(画像は原文とテキストの並べ重ねができます)
目録データへ
[表]
消印21日午後2時-3時
本郷区森川町一
柳瀬方
 小宮豊隆様
    小石川原町十
     寺田寅彦


[裏]
二十二日の夜汽車で御帰りの由、梅雨の頃の汽車はなんだか欝陶しい。九州迄は汽車でも遠い、君が淋しそうに客車の窓から空を見て居る顔を想像する事が出来ます。」僕は夏休みには伊豆の大島の噴火山を調べに行かねばならぬかも知れません 余程変つた土地だと云ふ事だから何か面白い種でも拾つて来ましよう。」
今夜風呂へ行て帰りに東の空を見ると火事かと見へて雨雲が赤い。なんだか池の端の博覧会場の方向だ。会場が一面の火焔につゝまれて池に映つたらいつものイルミネーシヨンよりは美しかろと一寸思ふた」
芝の婦人博覧会を見に行たら、徳川時代の婦人の頭飾や携帯品などが参考品として出て居る。詳く見て居ると、絵で見る昔の女らしい女が袿(うちかけ)姿や元禄髷でそこに現れる様な気がして昔の風がなつかしい。帰る前間があつたら三重吉さんも是非誘ふて見て来玉へ
     六月廿日夜