C:国書

 「小笠原文庫」として残される国書計192点は、その蔵書印より見て、明治元年(1868)以降に創設された小倉藩(豊津藩)藩校「思永館」(のちに「育徳館」)の旧蔵書を基礎とする書物群である。同藩における藩校の起源は、宝暦8年(1758)、石川麟洲(小倉藩儒、宝永4年<1707>生、宝暦9年<1759>没、53歳)を学頭として創設された「思永斎」にまで遡るが、慶応2年(1866)、長州勢の小倉城攻略の際、それまで蓄積されたであろう藩校の蔵書は散逸したと思しい。ために、「小笠原文庫」中の国書には、江戸時代前~中期の書物、珍書と称すべき書物は残らず、江戸時代後期~明治時代におけるごく一般的な刊本類がすべてを占めている。
 文庫の特色として挙げられることは『古事記』『日本書紀』『大日本史』など、歴史に関する書物が大半を占めている点である。特に、本居宣長著『古事記伝』、徳川光圀編『大日本史』、頼山陽著『日本外史』、藤原実連著『日本書記通証』などは数部ずつ重複して残されている。これらは、藩校創設の際、教材として収集されたものと思われ、藩校運営がまず、歴史教育に力点をおいて着手されたことを示唆するものであろう。そうした、明治維新前後の混乱期における、藩校教育のありかたを窺い知る資料群として、歴史的価値をもつものと思われる。
(大庭卓也)