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一 平成五年夏の異常気象

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 平成五年(一九九三)の夏は、全国的に低温・日照不足、西日本と東日本の多雨となり、一九五四年(昭和二十九年)以来の全国的な冷夏となった。これについて全国的な視野から述べる(気象庁、一九九四)。夏の気温平年差、降水量平年比、日照時間平年比の全国分布は第20図に示される。六~八月の平均気温は北日本の太平洋側で平年より二~三℃低く、福岡県では一~一・五℃低かった。特に八月の福岡県北部は二~三℃低い状態であった。降水量は、本州、四国、九州で平年より多く、九州南部では平年の二五〇パーセント以上であった。福岡県の六~八月の降水量の平年比は一五〇~二〇〇パーセントであり、かなり多い状態であった。日照時間は、全国的に平年より少なく、福岡県では平年比六〇~七〇パーセントである。

第20図 平成5年6~8月の気温・降水量・日照時間の平年比 (気象庁 1994)

 豊津町の六~八月の平均気温は二三・七℃で、平年の二五・二℃に比べて一・五℃低く、特に七月の平均気温は二四・三℃で、平年比二・一℃、八月の平均気温は二四・四℃で、平年比二・八℃、それぞれ低かった。降水量は六月三九二ミリメートル(平年三二〇・三ミリメートル)、七月三三二ミリメートル(平年二九六・九ミリメートル)、八月三八四ミリメートル(平年一五八・五ミリメートル)で、六~八月の全体の降水量は平年比一四三パーセントであった。日照時間は六月八八・二時間(平年一二五・五時間の七〇パーセント)、七月七六・九時間(平年一五〇・〇時間の五一パーセント)、八月九二・八時間(平年一八〇・三時間の五一パーセント)で、六~八月全体の日照時間は平年比の五七パーセントである(第3表)。
第3表 豊津の平成5年と6年の気温・降水量・日照時間の比較
 
気温(℃)降水量(ミリメートル)日照時間(時間)
平均最高最低
平成5平成6平年平成5平成6平年平成5平成6平年平成5平成6平年平成5平成6平年
1月5.85.14.89.49.19.12.41.00.4715074.868.8120.0100.8
2月6.85.85.311.29.59.71.71.80.84210291.0127.9115.9101.0
3月7.77.48.311.911.913.33.12.63.210272122.1143.1176.6134.1
4月13.614.713.418.718.818.68.010.58.3150238164.5199.2164.2149.4
5月17.719.217.922.023.623.013.014.312.7109122172.0120.5166.7166.2
6月22.321.922.025.725.626.319.218.117.8392230320.388.2112.9125.5
7月24.329.026.427.133.630.121.924.722.633231296.976.9271.2150.0
8月24.428.427.227.532.031.321.822.823.138419158.592.8258.1180.3
9月21.6-23.225.2-27.518.1-18.9259-190.5124.4-131.1
10月16.4-17.320.9-22.611.8-12.191-98.3175.6-147.3
11月12.8-12.016.3-17.19.1-7.0155-75.787.4-116.9
12月7.0-7.011.4-11.82.4-2.165-56.5133.4-100.8
15.0-15.418.9-20.011.0-10.82152-1821.11438.2-1603.4
平成6年は8月まで。

 このように、平成五年の夏は、全国的に気温が低く、日照不足で、かつ北海道を除いて多雨のいわゆる冷夏の状態であった。九州北部の梅雨入りは五月二十九日で、これは平年の六月八日に比べ、一〇日早い。ところがいったん梅雨明けを宣言したものの、結局は「梅雨明けの日」を特定しなかった。
 平成五年の異常気象は、ただ日本だけの現象ではなく、世界の各地で異常な状態が続いた。例えば日本から中国南部にかけての地域では平年比一八〇パーセント以上の降水量がみられ、この地域で顕著な多雨となった。一方、この多雨域の北側の中国北部および南側の中国の南シナ海沿岸と台湾付近では少雨傾向になっている。更に、アメリカ合衆国のミシシッピ川流域では、七月にアイオワ州、カンザス州などで平年の二・五~七倍に達する記録的な大雨となり、ミシシッピ川、ミズーリ川をはじめ約一〇〇の河川が氾濫し、中西部の広い範囲で大規模な洪水に見舞われた。この洪水のため、四〇人以上の死者がでたほか、家屋や農作物の被害は一〇〇億ドルを超えると報じられた(第21図)。

第21図 1993年7月の世界における異常天候発生地域の分布(気象庁1994)

 日本における平成五年の冷夏・長雨は、偏西風が分流してシベリア東部でブロッキング高気圧が発生したこと、亜熱帯高気圧が南に偏ったことによると考えられている。すなわち前者はオホーツク海高気圧の発達、後者は太平洋高気圧の日本付近への張り出しの弱さであり、これらはエルニーニョ現象に伴い、太平洋熱帯域の対流活動活発域が東に移動することで、西太平洋熱帯域での対流活動が不活発となり、盛夏期の太平洋高気圧の日本付近への張り出しの弱さを引き起こしたのである(気象庁、一九九四)。それは地球全体の大気の流れを変化させ、そのため世界の各地で異常な気象現象が現れたと考えることを可能にする。