今から約一万年前の早期になると、土器の様式に地域的な特色が現れる。つまり、関東地方では撚糸(よりいと)文系土器が、中部・近畿・北部九州地方では押型(おしがた)文系土器(第2図参照)が、東北地方でもやや遅れて貝殻沈線文系土器がそれぞれの分布圏を形成した。また、南部九州でも貝殻文系土器や幾何学文を施す塞ノ神(せのかん)式土器が出現する。器形はほとんど深鉢で、底部は尖底から丸底・平底へと変化する。
また、この時期には全国各地で竪穴(たてあな)住居が普及し始めるが、これは食料の安定的な確保により定住化が進んだためである。土器様式の分布圏の形成は、この定住化と深く関連し、一定範囲内に生活する諸集団の関係が密接になり、組織化されていった結果と考えられている。
一方、この時期の食料獲得方法として漁労が盛んになる。神奈川県夏島貝塚では九〇〇〇年前の獣骨製の釣針が出土している。また、北海道では漁網用の石錘(すい)が発見されており、六〇〇〇年から七〇〇〇年前にはシカの角やイノシシの四肢骨などを素材とした離頭銛(もり)も使用されていた。