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遺跡の性格

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徳永川ノ上遺跡は、弥生前期末から中期初頭の時期、次に中期末、そして弥生終末の時期と断続的に弥生人が生活している。徳永遺跡群では、弥生中期の墓地が居屋敷遺跡で発見されているが、川ノ上遺跡の近くにも存在するものと考える。弥生終末になると、集落と墓地が接近したらしく、最初は共存しているが、しだいに集落が移住して墓地に占有されている。この状況は、南側に隣接する神手遺跡でも同じで、しかも独立していた最大の竪穴住居跡地に墳墓群が営まれている。
 徳永川ノ上墳墓群の特徴は、第一に独立した群構成をもち、その各群が一基の墳丘墓と考えられることである。北部九州では、これまで墳丘墓が群構成をもって確認された例がなく、その内容が問題になってくる。しかも、近畿地方以東のように群を構成するだけでなく、造営された変遷がたどれることと、その集団の栄枯盛衰が把握できることにある。徳永川ノ上遺跡では、C地区とE地区双方でほぼ同時に墳丘墓が造営され始め、弥生終末古段階で双方が方形墳丘であったのが、新段階に円形墳丘が出現し、古墳初期になっても方形墳丘が残存していることになる。C地区での順序は、Ⅰ号・Ⅲ号が古段階、Ⅴ号~Ⅵ号・Ⅸ号~Ⅺ号が新段階、Ⅲ号・Ⅵ号の一部が古墳時代に残る。E地区では、三号墳丘墓が古段階、二号・四号墳丘墓が新段階、一号・五号が古墳前期である。D地区では、二号墳墓が古墳前期で、一号墳墓が古墳前期である。ちなみに、神手遺跡墳墓群は、布留式甕棺墓が存在することから古墳前期に属する。
 第二の特徴として、副葬品が豊富なことである。C地区では、弥生終末古段階に鏡片・小形仿製鏡・玉類・鉄器類を持ち、新段階に完形鏡を加えている。E地区では、弥生終末古段階に目立つ副葬品がないが、新段階に確実に完形の中型鏡を保有している。さらにC地区では、Ⅳ号・Ⅴ号・Ⅸ号・Ⅹ号墳墓群、E地区では三号墳丘墓1号棺などの各墳墓の盟主棺が荒らされて副葬品の内容の不明な点が惜しまれ、鏡が副葬されていた可能性が強い。
 第三の特徴は第二にも含まれるが、副葬品の鉄器にも大きな画期が看取できる。その一つが、超大型鉄製釣針の出現であり、これに二つの新技術が加わっている。新技術の一つが超大型化であり、二つ目が丸造軸の出現である。釣針の発達を段階でたどると、鐖の出現、内鐖の出現、鉄器化、大型化、超大型化、丸造軸の出現であるが、徳永川ノ上遺跡の釣針が弥生終末において一気に近代化を達成している。鉄器の二つ目は、Ⅵ号墳墓群42号墓で紹介した大型透孔付鉄鏃で、機能的には大きな透孔をもつことから流体力学を駆使し、破壊力を増加した鏃、または大型であることから儀〓品と考えるが、分布の中心が京都平野にあることがわかってきた。
第1表 徳永川ノ上墳墓群一覧表
No主軸方位床面棺規模(床面)センチメートル副葬品
(棺外)
時期備考
棺型式主軸長最大幅頭位幅深さ
3枕、赤色木蓋180474435+弥生終末(古)Ⅰ号墳墓群
4枕、赤色木蓋180413030+弥生終末(古) 〃
5西枕、赤色木蓋178453638+鉄剣弥生終末(古) 〃
6-、赤色木蓋171353045+鏡片、素環頭刀子、鉄鏃片弥生終末(古) 〃
7東南石枕、赤色石蓋157353242+弥生終末(古) 〃
8東北枕、赤色木蓋163423739鏡片、鉄刀子、玉(勾玉、管玉)弥生終末(古) 〃
9南東木蓋150383137弥生終末 〃
10東南枕、赤色舟木棺128454517+小玉、管玉弥生終末(古) 〃
11南東枕、赤色木蓋177423742鉄鏃片(土器)弥生終末 〃
12南東石枕箱木棺1906565+14+弥生終末(古) 〃
13東南枕、赤色木蓋60+342951鉄刀子2、勾玉、玉類弥生終末(古) 〃
14東南枕、赤色石蓋196413546Ⅱ号墳墓群
15北西石枕?石蓋177342840鉄刀子(土器)古墳前期 〃
16北東- -木蓋200644650(土器)古墳前期 〃
38南東- -土壙165594020+弥生終末 〃
17東南枕、赤色石蓋111252042Ⅲ号墳墓群
18南東枕?木蓋173433050鉄刀子 〃
64東南- -土壙124403521+ 〃
46北東- 赤色木蓋202434038+ 〃
19北西枕、赤色石蓋174413239鏡・鉄刀子弥生終末(古)Ⅳ号墳墓群
20西北枕、赤色木蓋164352032+玉類(勾玉、管玉、小玉)鉄刀子弥生終末(古) 〃
21西南枕、赤色箱石178434328+鉄刀子弥生終末(古) 〃
37北西- -石蓋80221531弥生終末(古) 〃
40北西枕、赤色(石蓋)83242110+弥生終末(古) 〃
50- -土壙83342342弥生終末(古)落穴
22北西枕、赤色箱石167454244鉄刀子(土器)弥生終末(新)Ⅴ号墳墓群
23西南?、赤色箱石19555+4245+弥生終末(新) 〃
24南西- 赤色箱石163525050鉄刀子弥生終末(新) 〃標石
K2西南甕棺120564656鉄鏃、刀子(土器群)古墳初期 〃標石
K3南東甕棺56+39+28.539+弥生終末Ⅴ号墳墓群
63西北- 赤色土壙8921184+ 〃
28南東枕、赤色石蓋136402618Ⅵ号墳墓群、標石
42東北枕、赤色石蓋202502745鉄鏃、刀子(釣針5・鏃・土器)弥生終末 〃標石
1東南土壙211624045(古墳前期) 〃
2- -土壙232787851鉄鏃2、鉄片古墳後期 〃
25南西枕、-石蓋120302547Ⅶ号墳墓群
26西北枕、-(木蓋)61221923 〃
43北東枕、赤色石蓋160393453(素環頭刀子) 〃
44西南枕、赤色石蓋152413665鉄鏃、素環頭刀子 〃
47-、赤色土壙117403317+Ⅶ号墳墓群
48枕?(石蓋)165383050 〃
49東南枕、赤色(石蓋)168333036+ 〃
51東南枕、-(石蓋)95222028+ 〃
52東南枕、赤色石蓋135352847 〃
53西枕、赤色木蓋175362845鉄鉇、鉄鏃 〃
54南東枕、赤色木蓋152484065弥生終末 〃
56東南枕、-石蓋99282044 〃
57南東枕、-石蓋74242433 〃
58北東枕、-木蓋113373054 〃
60南西枕、-石蓋126292641 〃
61北西石蓋68262034 〃
27北西枕、赤色木蓋182373028+鉄鏃2Ⅷ号墳墓群
29西枕、-木蓋160312315+ 〃
36北東礫床、-礫床173505010+ 〃
55枕、赤色木蓋152292231+
30西北-、赤色(木蓋)149292036+Ⅸ号墳墓群
31西北-、赤色箱石207624554鉄刀子、鉄鏃2 〃
32南東-、赤色箱石185534553鉄刀子 〃
34東南枕、-石蓋104312334Ⅹ号墳墓群
35西北床石、赤色箱石184454337鉄鉇(鉄斧) 〃
41南東枕、赤色石蓋169403052手鎌(土器)弥生終末 〃
59西北- -土壙?65251213Ⅹ号墳墓群
39東南枕、赤色石蓋100+343035XI号墳墓群
62西北枕、-土壙6618145+鉄刀子 〃
K4- 赤色甕棺50+5837.558弥生終末 〃
- 赤色舟形木225555022(土器片)鉄片古墳前期一号墳墓
1- -石蓋166353040古墳前期二号墳墓
2南東- -石蓋102261528管玉(土器)古墳前期 〃
3西北(石蓋)174412837古墳前期 〃
1北東- 赤色箱木棺220848444鉄鉇、鉄斧古墳前期一号墳丘墓
2- 赤色石蓋60262010古墳前期 〃
石組北東- -古墳前期 〃南西側に鉄斧
礫床礫床15034346+
1西北床石、赤色箱石183674647鏡片・玉・刀子弥生終末(新)二号墳丘墓
2北東枕、赤色木蓋188423643弥生終末(新) 〃
3南東枕、赤色石蓋171373035弥生終末(新) 〃
4枕、赤色箱石50+373542弥生終末(新)二号墳丘墓
5- -石蓋155281938弥生終末(新) 〃
1北東枕、赤色箱石160553751鉄鏃2弥生終末(古)三号墳丘墓
2枕、赤色石蓋160331848(土器)弥生終末 〃
3東北- 赤色甕棺玉(鉄刀子)弥生終末(古) 〃
4北西枕、赤色石蓋156352837鉄鏃(土器)弥生終末(古) 〃
5西枕、赤色石蓋60181520弥生終末 〃
6北西枕、赤色石蓋67221830弥生終末 〃
7西北- 赤色石蓋55181729弥生終末 〃
8- 赤色甕棺48弥生終末(古) 〃穿孔
9東南- -土壙210+372624鉄鏃 〃
10南西- -甕棺85+(土器)弥生終末 〃
11南西- 赤色(石蓋)14958-3530弥生終末 〃人骨片
12- -(割竹)220343422+弥生終末 〃
13- -箱木208353514+弥生終末 〃
1枕、赤色箱石174483744刀子、鉄鉇(土器)弥生終末(新)四号墳丘墓標石
2東北枕、赤色箱石190505048弥生終末(新) 〃
3西枕、赤色箱石175434341鉄剣、鉄鏃2弥生終末(新) 〃
4東北枕、赤色箱石185555455鏡、玉類、素環頭刀子、(剣先=中位2)弥生終末(新) 〃標石
5?、赤色箱石188604750弥生終末(新) 〃標石
6- -土壙151535030+弥生終末(新) 〃
7北西? ?箱石70242422弥生終末(新) 〃
1南東枕 -木蓋173312511+弥生終末(新)E地区北端
2南東(石室)130404020鉄鏃、刀子2古墳初期 〃