弥生時代の集落は、井戸や柵列・物見櫓(やぐら)などの施設を設ける場合もあるが、一般的には住居と倉庫が基本となる。当地域の前期における集落の典型は、下稗田遺跡の中葉の時期にみることができる(第47図)。I地点の丘陵は幅三〇~五〇メートルで、長さは二〇〇メートル以上続いているが、下稗田Ⅰ期(中葉のやや新しい段階)には七軒の住居跡が二〇メートル以上の間隔を置いて点在している。そして、それぞれの住居の周辺には一〇基前後の貯蔵穴(第48図参照)が発見されている。つまり、一軒の住居と一〇基前後の貯蔵穴が集落を構成する基本の単位となっていることが分かる。ただし、貯蔵穴は断面形が袋状をなす深い竪穴であるため、住居に比べるとはるかに崩壊しやすいものであった。このため、一軒の住居が一時期に所有していた貯蔵穴は二~五基前後ではないかと想像される。
第47図 下稗田遺跡Ⅰ地点Ⅰ期の遺構分布図(縮尺1/2000)
第48図 下稗田遺跡A地区69号貯蔵穴
(行橋市教育委員会提供)
住居の構造は、基本的に床面の平面形が円形をなす竪穴住居で、中央部に炉を持ち、周りの壁面下に溝をめぐらすものもある。規模はやや小型のものが多く、四~六メートル程度である。貯蔵穴は地表面の入り口部分に比べ壁面の下位や床面のほうが広くなる、いわゆる袋状の断面形をなす。床面の形態は平面形が円形を基本とし、大きさは直径一・九メートル以下の小型か中型が多い。