京築地域は奈良時代に豊前国府・国分寺が設置されて以来、先述した官衙や寺院関連の遺跡以外にも近年の考古学的発掘調査によって新たな遺跡が知られるようになっている。奈良時代から平安時代にかけての主な遺跡は第13表及び第58図に示すとおりであるが、集落関係の遺跡のほかに寺院や土器・瓦などの生産関連の遺跡がある。
　集落では古墳時代終末期の七世紀から、奈良時代の八世紀にかけての時期が多く、苅田町黒添・赤木遺跡、椎田町池ノ本遺跡、豊前市荒堀大保遺跡、同市吉木遺跡などがある。これらの遺跡以外にも豊前市小石原泉遺跡、苅田町谷遺跡など当時の官道に近接する遺跡では、円面硯や唐三彩・緑釉陶器などの重要かつ希少な遺物を出土する例が知られてきている。また、平安時代の集落は豊津町八ッ重遺跡、築城町赤幡森ケ坪遺跡で発見されている。
　古代の一般集落は、竪穴住居跡・掘立柱建物跡・井戸などの遺構からなるが、特に赤幡森ケ坪遺跡では六世紀代から九世紀代の長期間に及ぶ集落跡から方形竪穴住居跡一一〇軒・掘立柱建物跡三八棟が確認されている。
　豊前国の古代寺院は、西海道のなかでも筑前国の大宰府周辺に次いで数が多い。その分布は特に宇佐郡と京都郡・仲津郡に集中する。京築地域北部に相当する京都郡・仲津郡では、椿市廃寺が七世紀末の白鳳期から九世紀前半の平安時代初期にかけて京都郡に建てられており、上坂廃寺もほぼ同じ期間仲津郡に建設されていた。更に奈良時代の初頭には仲津郡に木山廃寺が建立され、奈良時代の後半に京都郡に菩提廃寺が建立された。京築地域南部では垂水廃寺があるが、白鳳期から奈良時代後半にかけての比較的短期間に設置されていた寺院である。豊前国分寺が豊前国の国立の寺院であるのに対して、これら京築地域の古代寺院は、各地域の豪族や郡司層の氏寺と考えられる。平安時代になると当地域周辺で修験道に関係する寺院が建立される。当地域北部では苅田町等覚寺があり、南部では豊前市如法寺を中心として求菩提で山岳修験道が盛んになる。また、平安時代から鎌倉時代にかけての経塚は、これらの遺跡の周辺以外にも豊津町徳永川ノ上遺跡周辺から発見されている。
　生産遺跡では古代寺院関係の瓦を焼いた窯跡と須恵器の窯跡とがある。瓦窯跡には、木山廃寺関連の犀川町福六瓦窯跡、豊前国分寺関連の豊津町徳政瓦窯跡・築城町船迫(ふなさこ)堂帰り瓦窯跡、垂水廃寺に伴う大平村友枝瓦窯跡と新吉富村山田窯跡・桑野原瓦窯跡などがある。このうち、船迫堂帰り瓦窯跡周辺では粘土採掘跡・粘土溜め・瓦製作施設・生瓦乾燥施設・住居跡やまつりの場など、瓦を生産する一連の工房が発見されている。また、須恵器の窯跡では豊前市四郎丸窯跡が七、八世紀に属する遺跡である。
第13表　京築地域の奈良時代以降の主要遺跡一覧表



第58図　京築地域の奈良時代以降の主要遺跡分布図