今朝六ツ半時分(午前七時ごろ)より東風きびしく吹き起こり、五ツ半時分(午前九時ごろ)南風に回り、し
ばらく吹き止み、やがて西風に変わり、言語道断はげしく相成り、四ツ時分(午前十時ごろ)北風に回り鎮
り申し候
今度の台風は、風向きの変わった午前九時過ぎから、西風が強く吹き荒れたが、昼間のことで「防ぎ方も行き届き、なおまた、最初の風に転び候ほどの家は多く転び候こと故、転び家、転び木などは少なく候」と、今度は先の大風に比べて、家屋の倒壊や倒木が少なかったのは、先の台風で既に倒壊した家屋が多かったためで、台風の勢力は、先の大風とあまり変わらなかったと思われる。事実、長井手永では、先の大風で居家の倒壊九七軒に対して、今回の台風では一〇〇軒の倒壊を記録している。
今度の台風による小倉藩の被害は、居家の倒壊二九八八軒、特に海辺の浦方に被害が大きく、船の破却・流失が二五一艘、漁人の死者八八人、同行方不明者は一九四人にも上っている。
風水害による被害は、当然稲作にも及び、同年の年貢収量は、企救郡一万二七一八石、田川郡一万四五四三石、京都郡九六七八石、仲津郡九五七一石、築城郡六四八三石、上毛郡五七六七石で、合計五万八七六〇石に過ぎず、年貢収納率は六〇パーセント弱であった(『福岡県の歴史』光文館刊)(第106表参照)。
第106表 文政11年8月の風水害による小倉藩の被害 |
被 害 の 内 訳 | 8月10日の 大 風 | 8月24日の 風水害 |
居家(本転半転ともに) | 6862軒 | 2988軒 |
稲屋・牛馬屋・土蔵・物置(本転半転ともに) | 3759軒 | 1195軒 |
焼失居家 | 8軒 | |
御腰掛所在番役宅・遠見番所・諸役宅・御茶屋・郷蔵(本転半転ともに) | 32軒 | 5軒 |
御高札場 | 21ヵ所 | 8ヵ所 |
塩焼屋 | 59軒 | |
水車屋 | 8軒 | 3軒 |
寺社・小社・拝殿・神輿蔵・辻堂・庫裡・寺門(本転半転ともに) | 213軒 | 98軒 |
船数(破却・流失ともに) | 149艘 | 251艘 |
漁人行方不明 | 194人 | |
同死人 | 88人 | |
怪我人 | 175人 | 10人 |
死人 | 73人 |
(『中村平左衛門日記』から) |