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最初の道具

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「二〇〇一年宇宙の旅」というSF映画は、猿人たちの投げ上げた骨がそのまま宇宙船に重なっていくという印象的な場面から始まる。「人類は道具を使うサルである」とは、しばしば人類と道具の関わりの深さを表すときに引用される有名な言葉であるが、映画の冒頭のシーンはそれを見事に象徴している。
 もちろん、人類が最初に使った道具は、森で拾った木の枝、白骨化した動物の死体の脇から拾い上げた骨か角、あるいは河原で拾った石であったかも知れない。しかし、こうした自然界から得られる物をそのまま道具として利用するだけであれば、何も人類だけの専売特許とは言えない。口に咥(くわ)えた石を落として卵を割る鳥の映像や、泳ぎながらお腹の上の貝を石を使って割(わ)っているラッコの姿などを、おそらく多くの人は目にしているに違いない。さらに、チンパンジーは木の実を割るために「台にする石」と「叩(たた)くための石」の使い分けをしたり、巣の中の蟻を釣るために、細い枝の先を噛んで柔らかくすることさえしているのである。しかし、ここで確認しておきたいのは、自然の石をある意図のもとに規則的に割りながら、一定の形に繰り返し作ることができるのは人類だけであるという事実である。二〇〇万年前の原人が初めてこうした道具を作り始めたのであった。
 当時の道具は、川原石を割って剥(は)がしただけの簡単なもので、場当たり的に、ものを切ったり、削(けず)ったりしていたようであるが、人類の進化と共に、次第に石器は精巧なものとなり、百万年ほど前からハンドアックス(握斧(にぎりおの))という定型的な石器が作られるようになった。さらに当町で発見されるような三万年前よりさらに新しい時代になると、縦長に規則的に剥がされた定型的な剥片(はくへん)を使って、ナイフ形石器や尖頭器など、流麗(りゅうれい)で精巧な加工の石器を製作するまでになってくるのである。一方、彼らは良質な石器の材料を求め、広範な採集活動や積極的な交易を行なうようにもなっていった。

1-4 石器の使用方法


1-5 前原遺跡出土ナイフ形石器