蚕を飼育して繭を出荷するまでの期間を蚕期といい、年間の蚕期は、春蚕(はるご)、初秋蚕(夏蚕)、晩秋蚕(秋蚕)の三回であった。
春蚕は、四月二〇日から二二、三日ごろに蚕種が届き、これを掃き立てて飼育したのち五月二〇日ごろに上蔟(じょうぞく)させる。そして、五月末に繭掻きを行い、六月初旬に出荷した。五月から六月にかけては、「農の五月」といわれるように農家は多忙を極めた。春蚕に桑を与える一方で畑の大麦を刈り、これを畑で乾かしている間に上蔟をすませる。上蔟後には大麦を脱穀し、続いて繭掻きを行う。そして、繭の出荷後には小麦を刈り、これを取り込んでおいて田植えを行い、終わると直ちに小麦の脱穀に取り掛かる。まさに、息つく暇もない忙しさであった。
春蚕の上蔟時期は麦刈りと重なるので、刈り取った麦を畑で乾かしている間に上蔟を行い、すむと直ちに麦をバラックヘ取り込んだ。
初秋蚕は、八月初旬に掃き立てを行い、二三日ごろに上蔟させて、八月末に繭掻き、九月初旬に出荷となった。和戸では、「高野のお施餓鬼(せがき)までに初秋蚕をあがらせる」といい、八月二三日に行われる下高野永福寺の施餓鬼を初秋蚕上蔟の目安としたものである。
晩秋蚕は、九月中旬に掃き立てを行い、一〇月上旬に上蔟させて、中旬には繭掻きから出荷の運びとなった。かつては一〇月一八日に行われる西粂原の鷲宮神社のオタキアゲには、繭の出荷がすんで一年の蚕期が終了し、蚕室となっていた母屋はきれいに掃除された。そして、オタキアゲが終わると稲刈りが始まり、農家は収穫の秋本番を迎えるのである。