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消毒と暖房

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 稚蚕は、雑菌がつくと病気にかかりやすいので、掃き立て前にはザシキを密閉してホルマリン消毒を行った。その手順は、ザシキに蚕棚を組んで障子や板戸の隙間を新聞紙などで目張りし、棚の中央にコンロを据えて火を焚く。この上にホルマリン液を入れた鍋を掛け、蒸気で室内を消毒した。そして、数日を経てから掃き立てを行った。
 蚕室の温度は摂氏二三、四度が適温とされ、温度が低いと蚕の食欲が鈍って成長が遅れる。そこで、常に蚕室の寒暖計を注視し、気温の低いときには蚕棚の間に火鉢を置いて室内を暖房した。火鉢には練炭用と炭用があり、町内では鋳物の練炭火鉢を用いる家が多かった。炭用の火鉢は直径七、八〇センチくらいの黒瓦質で、これには獅子頭をかたどった取手が付いていた。県内のザシキに囲炉裏が切ってある家では、そこで炭を起こして暖房した。また、鴨居に釘を打って四面に厚手の渋紙を吊すと断熱の効果があった。