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樋下げ

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 滞水層を突き当ててそこまでの泥を削ったら、鉄管を引き上げて一日の仕事を終える。そして、翌朝には樋下げを行う。樋には、古くはモウソウダケが用いられた。直径三インチ弱(約七センチメートル)のモウソウダケを岩槻市の農家や寺院、あるいは幸手市の竹屋から購入し、稲藁の火であぶって真っ直ぐに伸ばしてから節を抜く。これをリヤカーに積んで現場へ運び、穴に下ろしながら何本もつないでいった(図14)。滞水層に下ろす竹には水を吸い込むための穴を開け、その数は飲み井戸が一個、陸田用が三、四個であった。陸田は一度に大量の水を汲み上げるので、その分穴の数を多くした。昭和三〇年代後期には、モウソウダケに代わって直径三インチの塩化ビニール樹脂パイプが用いられるようになった。

図14 モウソウダケのつなぎ方

 樋下げは、命がけの作業であった。削った穴へ真っ直ぐに樋を下ろすには技術が必要であり、失敗をすると二度と引き抜けない。したがって、無事に樋下げが終わると、井戸屋は一安心して胸を撫で下ろしたものである。