知久家では、現在二代目の勇氏(昭和一五年生)が折箱屋の仕事を継いでおり、勇氏は昭和三四年に高等学校を卒業したあと父春吉氏について折箱製作を習った。
仕事を始めるにあたり、春吉氏は勇氏に一本の金槌を買い与えた。折箱は、鉋(かんな)が一人前に扱えて初めて作れるものであり、鉋の刃出しやウラ出し(刃を反らせること)には金槌が欠かせない。自分の手に馴染んだ金槌で刃を微妙に調整することが、折箱作りの第一歩なのである。
技術については、「目で覚えろ」といって一切手解きをしなかった。しかし、商売については口が酸っぱくなるほど事細かに教え込んだ。これが、春吉氏の仕込み方であった。