ビューア該当ページ

餅なし正月と家例

179 ~ 180 / 772ページ
 正月の儀礼食として欠かすことのできないものに餅がある。正月には神棚にオソナエを上げ、三が日は雑煮を供え、家族の者も雑煮を食べるのが一般的な正月の行事である。
 鏡餅は民俗学的には心臓を形どっているものといわれ、魂のシンボルでもある。故に正月に餅を食べることは年の初めに体内に新しい生命力を取り入れることでもあった。神様に供える雑煮にもさまざまな作り方があり、「神様にはオソナエが供えてあるから雑煮には餅を入れない家」と、「小さな四角に切って入れる家」がある。ところが、町内各地には家例(その家に代々伝わる習慣)として「正月に餅を食べない」、「餅を供えない」という家がある。このような家例を「餅なし正月」という。次に町内の「餅なし正月」の事例を紹介する。
表1 正月の供え物
期間食べ物供え物お供え・その他
A家三が日朝 そば
夜 ご飯
朝 そば
夜 ご飯
お供えは大神宮様・恵比須様・仏様に供えた。
4日から雑煮を食べた。
B家三が日朝 赤飯
夜 ご飯
朝 赤飯
夜 ご飯
お供えは家の神様すべてに供えた。
4日から雑煮を食べた。
C家三が日朝 赤飯
夜 ご飯
朝 赤飯
夜 ご飯
お供えはしなかった。年末の餅つきもしなかった。
4日から雑煮を食べた。
D家元日朝 ご飯
夜 ご飯
朝 ご飯
夜 ご飯
お供えは家の神様すべてに供えた。
2日から雑煮を食べた。

 須賀上のある家では「火のもの断ち」といって、三が日は雑煮を食べない。
 若宮のある家では、ハガタメといって、正月三が日はアンビン餅を食べ、雑煮は食べない。
 宮東のある家では、元日の朝は雑煮を食べないで、大晦日に作ったけんちん汁とご飯を食べる。二日と三日の朝は雑煮を食べ夜はご飯を食べる。正月の間は神棚や仏様にも同じように供え物を上げる。この家例は、当家が分家に出た年の正月にこのようにしたことに由来するという。
 本田のある家では、正月三が日に家族の者は雑煮を食べないで、アベカワ餅(餅を焼いて黄粉を付けたもの)を食べる。雑煮の具は吸い物にして食べる。
 中島のA家イッカでは、「赤飯正月」といい正月に赤飯を供える。
 中のK家イッカでは、正月三が日は「そば正月」といい、神棚にそばを供え、家族の者もそばを食べる。四日の朝から、芋・ニンジン・大根・春菊の入った醤油味の雑煮を作って供える。
 なお、正月にはお粥を家例として食べる家もある。