伊勢講は、三重県伊勢市の伊勢神宮に参詣するための講である。おおよそ、全員が参詣するために、ある一定期間の講金の積立てを行い、伊勢参詣の費用を捻出するものであった。近世には「一生に一度は伊勢参り」という考え方が広まったが、近代以降になると交通機関の発達などに伴いさらに広く伊勢参詣が行われるようになっていった。
伊勢講による伊勢参宮は、単に伊勢神宮参詣だけでなく、広く中部・近畿地方の有名社寺はもとより、琴平神社や厳島神社といった中国・四国地方の社寺参詣も併せて行われた。こうした社寺参詣は、参加する講員の中で、二、三のグループに分かれる事例が多く、このため講では伊勢までは同一行動をとるものの、それ以降は解散し、少数の集団に分かれてそれぞれの希望にあった行程を取っていた。このため、伊勢参宮後、すぐに帰路につく事例もあれば、大坂・京都・奈良方面の観光を行う事例もあり、さらに金刀比羅宮・厳島神社まで足を延ばす事例もある。
参宮後の記念事業として、自分のムラの鎮守である神社に、鳥居・幟枠・水屋・手水鉢・灯籠・敷石・額・樹木などを奉納する例がみられる。
敷石寄付の事例は比較的多く、姫宮神社、蓮谷稲荷神社、和戸浅間神社、道仏稲荷神社、五社神社にそれぞれ見られる。ことに姫宮神社には文久三年の伊勢参宮記念碑があり、五社神社には明治一三年の「敷石寄付伊勢太々連」と記された伊勢参宮記念碑がある。また、道仏稲荷神社では、伊勢参宮記念として樹木を奉納した事例がある。昭和一五年の伊勢参拝記念碑には杉の苗木一〇〇〇本、昭和三〇年の伊勢参宮記念碑には欅二本の奉納や記念植樹をしたとある。