繭から引いた生糸を絹布に織るまでの工程は、次のようである。
①撚り掛け ザグリの小枠に巻き取った生糸を、大枠に巻き替えて綛(かせ)にする。綛から糸を引き出してイトグルマの錘に差したクダヘ絡め、錘を回転させながら撚りを掛ける。生糸は、ザグリの鼓に絡めることでゆるい撚りが掛かっているが、ここでもう一度撚りを掛けるのである。
②糊づけ 撚りを掛けた糸のうち、経糸とするものに糊をつける。経糸は織りながらオサ(筬)で叩くため、毛羽立たやすい。そこで、表面を糊で覆い、毛羽立つのを防ぐ。
③巻き替え 糊づけをした経糸を、小枠に巻き替える。
④ハタヘ 経糸を巻いた小枠を並べて糸を手繰り寄せ、ヘダイの杭に掛けて一幅分の本数と長さを整える。この作業をハタヘ(機綜)、ハタヘルといい、ヘダイをヌキシタ(軒下)やダイドコロの土間に据えて行われた。
ヘダイは図1のような形態で、左右の杭を往復することで一幅分の本数をそろえる。機織り機ヘ一度に掛ける長さは、自家用の場合一反か一疋(二反)であり、一反は鯨尺の二丈八尺であった。したがって、ヘダイの幅を一丈とすれば、杭を三回掛けて一反となり、一疋の場合はヘダイの幅を二丈とした。ヘダイには、手前左側にアヤ取りの杭が二本あり、ここまで来たら指でアヤを取って杭に掛け、再び来た道を戻る。戻り方にはヘックリケエシとブンマワシ(図2)があり、ヘックリケエシで戻ると隣り合う糸が対称形をなすので、太い縞を作る場合にはこの方法が用いられた。
図1 ヘダイ(西粂原 Y家)
図2 ヘックリケエシとブンマワシ
ハタヘが終わると、アヤが崩れないよう紐でしっかりと縛り、手に絡めて玉を作りながらヘダイから外す(図3)。
図3 タマを作りながら糸を外す方法
⑤巻き付け アヤにシノ竹二本を通して両端を紐で結び、端の輪に棒を通して、これをオマキの溝に固定する。そうしたら、糸を長く引っ張って樹木や柱に縛り付け、一人がシノ竹を持ってアヤを移動させ、もう一人がオマキを手前に回しながら経糸を巻き取っていく(図4)。この作業を巻き付けという。巻く際には、糸の崩れを防いで張りを均一にする目的でハタクサを挟む。ハタクサは、マダケを割ったものが用いられた。
図4 巻き付け
⑥アヤ通し 巻き付けがすんだら、経糸の端を一本ずつ取って糸綜絖へ通す。糸綜絖はアヤと呼ばれ、絹、木綿を問わず四枚一組で使用された。古くはカケイトと称して、図5のように糸の交点に経糸を通すものが用いられたが、昭和初期には中央に瀬戸物の輪を付けた糸綜絖ができ、これはカギに経糸を引っ掛けて輪を通過させるので、カケイトに比べてはるかに能率が上がった。
図5 カケイトの糸綜絖
⑦オサ通し アヤ通しがすんだら、続いてオサ通しを行う。オサ一目には経糸の上糸と下糸をいっしょに通し、これをモロメ(両目)という。木綿と絹では、用いるオサの目数が異なり、木綿用は一〇束(一束は二〇目)であったが、絹用はそれよりはるかに細かかった。
⑧機織り機への引き込み 機織り機にオマキを固定し、オサをオサヅカ(筬柄)にはめ、アヤをロクロから吊して下部を踏み棒に結び付ける。そうしたら、経糸を手前へ引き、先端を布巻き棒に固定してピンと張る。この状態で織り手が座り、高さを調整すれば経糸の支度は完了である。
織りじまいの経糸が掛かっている場合には、巻き付けをした経糸を糸綜絖やオサに通さず、織りじまいの経糸に一本ずつ繋いだ。この作業をツナギツケ(繋ぎ付け)という。図6のように、巻き付けをした経糸と織りじまいの経糸のアヤにそれぞれ長いシノ竹二本を通して機織り機の桁に縛り付け、双方から糸を一本ずつ取っては機(はた)結び(図7)で繋いでいく。全部をつなぎ終えるには半日以上の手間がかかるが、アヤ通しとオサ通しが不要となるので、結果的には能率が上がった。
ツナギツケが終わると、経糸が平らにそろうまで(張りが均等になるまで)無駄織りをし、徐々に手前へ引いて、繋いだ部分を糸綜絖からアヤヘと通過させる。そして、無駄織りがすんだら新たな一反を織りはじめる。無駄織りをした部分は、布巾などに利用された。
図6 ツナギツケ
図7 機結び
⑨緯糸のクダ巻き 経糸の支度がすんだら、イトグルマを使って緯糸をシクダ(杼管)に巻き、杼(ひ)に入れる。
⑩織る 二本の踏み棒を交互に踏んで経糸のアヤの口を上下に開き、その間に杼を通して緯糸を織り込む。一杼織るたびにオサで打ち込み、織り目を詰める。また、織りあがった部分には、織り縮みを防ぐためにシンシ(伸子)を張る。
機織り機はハタシと呼ばれ、絹織りには引き杼の高機が用いられた。これは、紐を引くたびに杼が左右へ飛ぶ仕組みである。