畑作地域では、秋から冬にかけては晩飯にそばを打って食べることもあった。
ソバは「高野の前後がまき時」といい、八月二三日に行われる高野の施餓鬼を目安に種をまいた。秋の彼岸ごろにはシラハナ(白花)が咲き、その一か月後には収穫となる。刈り取ったソバは、畑で乾燥させてから莚の上で揉んで実を落とし、さらに乾燥させてカゼットオシを行う。カゼットオシは、風通しの良い場所で笊に入れたソバを落とし、ごみを飛ばして選別する作業である。ごみを取り除いたら、実を袋に入れ、踏んでツノを折り、これを篩(ふるい)で振るう。こうして調製されたソバを一斗缶などに入れて保管し、逐次出しては石臼で粉にひいてそばを打った。打つ際には、つなぎの小麦粉を混ぜる。その分量はソバ粉と半々くらいであり、小麦粉が多いほど切れにくいそばとなった。
食べ方はツケシタジが多く、茹でて水に晒したそばをシタジにつけて食べた。寒い時期なので、食べる直前に熱湯でトウジルことが多く、これをトジソバといった。シタジは、カツオ節でだしを取った醤油味の汁やネギを油で炒めた煮汁で、来客時には鶏肉とゴボウを炒めた醤油味の煮汁も作られた。残ったソバは、煮込みにすることが多かった。