醤油の仕込みは秋か春に行われ、これを半年後に搾った。つまり、秋に仕込んだ場合は翌春、春に仕込んだ場合は秋に搾ったのである。また、ヒトドヨウ(一土用)を越さないと搾れないといい、秋に仕込んだものを一年後に搾る場合もあった。麹作りや仕込み、搾りには醤油屋を頼み、町内では東粂原のI醤油屋を頼む家が多かった。
6-20 醤油搾りのフネと醤油をすくう杓(和戸沖の山 G家)
醤油には小麦の麹を用い、一斗のショイダル(醤油樽)一〇本分の醤油を作るには、小麦三斗と大豆三斗が必要であった。麹作りの手順は、まず、鉄製の焙烙で炒った小麦を石臼で碾割にし、一方では大釜で大豆を煮る。大豆が柔らかくなったら、これを粗くついて小麦の碾割と混ぜ、タネを振ってコウジバコに寝かせる。その後は、毎日醤油屋が来て麹の温度を確認し、一週間くらいたつと発酵が進んで麹ができあがった。
麹ができたら、直径一メートルくらいの大きな桶に麹と塩と水を入れ、撹拌して諸味を作る。塩加減や水加減は、すべて醤油屋任せであった。
こうして仕込んだ諸味桶をダイドコロの土間に置き、毎日カンマシボウで撹拌した。諸味は、撹拌を繰り返すうちに発酵が進み、プツンプツンと音を立てるようになる。この状態を「煮立つ」といった。
約半年後には、醤油屋が道具持参で搾りに来た。また、共同の道具があればこれを使用した。搾る手順は、図27のように杓で諸味をすくって麻袋に入れ、これを折ってフネに一〇〇枚くらい重ね、上から蓋を締めて角材で押さえる。この状態でキリンで締めると、搾られた醤油がフネの口から出てくるので、これを桶に受け、さらに大釜に移して煎じる。その際には、甘味付けの糖蜜ととろ味付けのカラメルを加えた。糖蜜やカラメルは、杉戸町などの薬局から購入された。煎じる途中では、表面に浮いたアワ(泡)をすくって容器に移す。このアワの中に薄切りのダイコンを漬けると、おいしいアワ漬けができた。また、アワを薄めてから刻んだ野菜を入れ、アワジルと称する吸物を作る家もあった。
図27 諸味を麻袋に入れる方法
煎じた醤油は、冷ましてからショイダルに移して保管された。ショイダル一〇本の醤油があれば、一年分を十分に賄えたという。