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 酒の一升瓶売りが一般化したのは終戦後のことであり、それまでは必要に応じて徳利を提げて酒屋へ行き、二合、三合と量り売りをしてもらった。また、カエドックリ(替え徳利)といって、酒屋の屋号を入れた徳利で酒を買い、これが空になると中身の入った徳利と取り替えてもらうこともあった。
 正月や秋のお日待などに客を招待するときは、酒を樽で購入した。酒屋では「樽を貸す」といい、樽が空になるとタルヒロイ(樽広い)と称して小僧が回収に歩いた。
 農村部には食料品や日用品の商いを兼業する農家があり、そこをタナ(店)と呼んだ。酒を扱うタナでは、清酒や焼酎を小売りするほかこれらを飲ませてもおり、須賀のオトメダナやヘイジダナには、夕方ともなると酒好きの男衆がモッキリ酒を飲みに来たという。モッキリ酒は、受け皿にのせたコップヘ酒を盛り切りにするもので、受け皿にこぼれるタレ(垂れ)が多いほど客は喜んだ。肴は、店に置いている豆腐や油揚などであった。また、酒には焼酎にみりんを混ぜたナオシ(直味醂)もあり、これは酒が弱い者でも飲めた。こうしたタナは、昭和四〇年ごろを境に姿を消した。