ビューア該当ページ

カワリモノ

542 ~ 546 / 772ページ
 農事の折節にはモノビ(物日)と称する休日が設けられ、この日は農耕儀礼や年中行事が伴われて、食事にもふだんとは異なるカワリモノが作られた。
 穀物を材料としたカワリモノは表1のようであるが、この中で代表ともいえるものは白米飯であった。日常に麦飯を食べていた時代には、米だけで炊いた白米飯が何よりのご馳走であり、これを食べられるのは正月、田植え、盆、お日待ち、恵比寿講など年数回に限られていた。白米飯に醤油をかけたショイメシのおにぎりは、手づかみで食べられる手軽さから、田植えのオチャをはじめ道普請の共同作業や消防団の出初めなど、人が集まるときによく作られた。また、白米飯にニンジン、ゴボウ、カンピョウ、油揚などの具を混ぜた五目飯や五目寿司、海苔巻寿司、油揚寿司は、人寄せ時のご馳走とされた。一月七日の七草粥や小正月の小豆粥、小豆飯も、ふだんには作られないカワリモノである。
 粳米の粉をシンコといい、これで作るカワリモノには団子や粉餅があった。団子は、小正月、彼岸、盆、月見などに作られ、残ると灰の中で焼いて醤油をつけたり、茹でて甘辛いあんを絡めて食べた。粉餅は、シンコをこねて蒸してから餅に搗いたもので、節供の草餅や柏餅がこれに当たる。シンコは、寒晒しといって寒の時期にといだ米を凍らせてから粉にひくと、一年間虫がつかずに保存することができた。また、シンコにする米は、コザキと称して脱穀調整の過程で砕けたものを用いることが多かった。
 糯米で作るカワリモノには、赤飯、餅、ぼた餅があった。赤飯は、祭りや祝事に欠かせぬものである。餅は、正月餅、寒餅、節供餅などがあり、お日待ちにはアンビンと称するあん入りの餅が作られた。ぼた餅は、盆、彼岸、月見、コウジンサマ(荒神様)、トウカンヤ(十日夜)などに作られ、田植え終了後のサナブリや米の脱穀調整終了後のシノッパライにもつきものとされた。古くは、糯米に粟を混ぜたアワボタモチも作られたという。
 小麦で作るカワリモノにはうどんとまんじゅうがあり、これらは季節を問わずに作られるが、中心となるのは小麦収穫後の夏であった。小麦の脱穀調整が終了すると農家は一斉に農休みを取り、この日には「朝まんじゅうに昼うどん」を作った。嫁は、これらを手土産に里帰りをしたものである。また、農休みの時期に行われるオシシサマ(お獅子様)や天王様、八月一日の釜の口開け、七日の七夕、盆にもうどんやまんじゅうはつきものとされ、「昼うどん」と称して、昼に打ち立てのうどんを冷たいシタジで食べるのは夏の醍醐味であった。
 晩秋にはソバが収穫され、これをイスス(石臼)で粉にひいて手打ちそばを作った。手打ちそばは、大晦日の年越しそばがよく知られるところである。食べ方はツケシタジで、茹でて水に晒したそばを醤油味のシタジにつけて食べた。また、寒い時期なので、食べる直前にそばを熱湯で温めることも多く、これをトジル、トウジルといい、温めたそばをトジソバといった。
 畑作地域の須賀では、一年間の農作業が終えると新ソバで手打ちそばを作り、「おかけさまでノウ(農作業)が終えました」と、本家や親戚に届けて宴に招待した。この行事をソバホガケという。ソバホガケの宴では、シッポコソバが振る舞われた。シッポコソバは、鶏肉とゴボウを炒めた醤油味のシタジにそばをつけて食べるものである。
 副食のカワリモノには、魚料理と油料理があった。魚は、日常にはせいぜいメザシ(イワシ)を焼いたり、川魚を捕って調理する程度であり、ニシンやなまり節の煮付け、塩ジャケ、塩イカ、塩サバ、サンマなどの焼き魚は、田植えやお日待ちといった特別の日のご馳走とされた。また、油を大量に使うてんぷらも人寄せ時のご馳走であり、中には杉戸町の料理屋から鰻のてんぷらを買って振る舞う家もあった。養蚕が盛んな時代には、蚕の上蔟がすむと手伝いの者を招いてカイコアゲの祝いを行ったもので、このときにはてんぷらがご馳走の主役となった。そのほか、鶏肉や骨団子の料理も来客時のご馳走とされた。
表1 折節のカワリモノ
カワリモノ材料粳米糯米小麦ソバ



物日・行事







寿














正月三が日     
(雑煮)
   
カレイビ           
七草(一月七日)           
小正月         
オソナエクズシ(一月二〇日)       
(雑煮)
    
初午           
不動様(二月二八日)     
(草餅)
      

ミイク(三月二一日)
       
(アンビン)
    
桃の節供(四月三日)     
(草餅)
 
(アンビン)
    
彼岸(春・秋)         
お釈迦様(五月八日)     
(草餅)
      
端午の節供(六月五日)     
(草餅)
 
(アンビン)
    
田植え           
サナブリ          
浅間様(七月一日)        
農休み          
オシシサマ(お獅子様)         
天王様        
釜の口開け(八月一日)          
七夕(八月七日)          
盆(八月一三日~一六日)        
八朔の節供(九月一日)         
十五夜(九月一五日)         
十三夜(一〇月一三日)         

お日待ち(一〇月一九日)
     
(アンビン)
   
荒神様(一〇月三一日・一一月三〇日)          
十日夜(一一月一〇日)           
シノッツパライ           
ソバホガケ           
えびす講(一一月二〇日)           
大晦日(一二月三一日)           

 次に、一年を通して作られるカワリモノの中から、宮代町の特徴を示すものを取り上げて詳しく紹介する。