人々の暮らしの中で口頭伝承として伝えられるものに、伝説・昔話・世間話などがあるが、それらの範疇(はんちゅう)を明確に区分することは困難で、伝承者もその聞き手もそれらを深く意識しないで語り伝えている。
一般的には、伝説は昔話に比べると具体的な事象(事件や紛争など)や場所(橋・寺院・塚や沼など)に深く結びついて語られるものである。特定の塚や仏像・動物などに関して、その由来を説き、あたかも真実のように言い伝え、聞き手もそれを信じている話のことである。
伝説はその内容によって、「自然伝説」「歴史伝説」「信仰伝説」に分類することができる。これらの内容は、次のように分類できる。
自然伝説―動物・植物・天体・気象・地形・水・火などに関わる話
歴史伝説―村・地名・聖地・屋敷・家系・神仏・建物・偉業・事件・紛争などに関わる話
信仰伝説―神(家の神・疫病神・稲荷神・神社など)、仏(地蔵尊・薬師如来・お堂など)、霊魂(生霊・幽霊・人魂など)、妖怪、祭礼行事に関わる話
これに対して、「一寸法師」などの昔話は、話そのものを楽しみ、聞き手も話の内容そのものは信じてはいない。「昔々、あるところに、……」で始まる物語で、伝説のように特定の時代や場所の話ではない。また、話の始まりや結びに決まった形式をもって語られるものが昔話の特徴である。
記述にあたっては、聞き取り調査のほかにも『新編武蔵風土記稿(以下『風土記稿』という)』『武蔵国郡村誌(以下『郡村誌』という)』『埼玉県伝説集成上・中・下・別巻(以下『伝説集成』という)』『埼玉の神社(以下『神社誌』という)』などの記録として伝わっているものも掲載した。